第52話 等身大の私を受け入れてくれる人たち
「お忙しいのに皆さん本当にありがとうございました。」
それから数十分間、私は全員に意見を聞き続けた。
そして通常のお仕事に戻ってもらうべくとりあえず解散をして、自分はみんなの意見のまとめにはいった。
「ままぁ。」
「はぁい。ちょっと待っててね。」
「あっち!あっち!」
机に向かって真剣に何かを書いている私に、二人は外に行きたいという主張をしてきた。でもすぐにまとめないと忘れてしまいそうだと思った私は、適度に二人に目線を配りながら、ノートをまとめ続けた。
コンコンコンッ
するとその時、食堂のドアをノックする音が聞こえた。
音に驚いて入口の方をみると、そこにはラルフさんの姿が見えた。
「邪魔を、したかな。」
エバンさんのような穏やかで優しい赤い目をしたラルフさんは、少し困った顔をして言った。私は急いで立ち上がって、「とんでもないです」と言った。
「君が朝から何かしているという噂を聞いてね。つい覗きに来てしまった。」
一旦もらった意見をまとめてから、詳しいことをラルフさんには話しに行こうと思っていた。
もしかして勝手なことをするなと怒られるのではないかと今更思って、「あ、あの…」と言って口ごもってしまった。
「好きにやるといい。」
するとラルフさんは、やっぱり穏やかな目をして言った。
驚いてまっすぐ瞳を見つめると、ラルフさんは目を細めてにっこり笑ってくれた。
「君の好きにやるといい。それが誰かのためになる事だってことはよく分かっている。」
何をするかも聞いていないのに、ラルフさんはそう言ってくれた。まるでパパと話しているみたいだって思った。
「金のことも気にするな。それも君の指示に従えと、私からも伝えておこう。」
私の考えを全部読んだみたいに、ラルフさんが言った。
私は大人しくないし、しおらしくもない嫁だ。嫁として立派に役割をはたしているとも思えないし、むしろ婿みたいにせっせと働き始めてしまった。こんな私は嫁失格だって何度も思ったけど、ラルフさんはそんな私のことをちゃんと認めてくれている。
「ラルフ、様…。」
好き勝手出来るのも、全てこの家の方々の理解あってのことだ。女性が働くという事にまだまだ抵抗のあるこの世界で私が仕事が出来るのも、ラルフさんやレイラさんのおかげだ。
「本当に、ありがとうございます。」
本当にこの家に来てよかった。
心からのお礼を伝えると、ラルフさんはにっこり笑って「こちらこそ」と言った。
「カイとケンは、私とレイラで見ておこう。そろそろ訓練でもさせてみようか。」
その上ラルフさんはそんなことを言って、二人に「おいで」と言った。
訓練をさせようかなんて言っているけど、ラルフさんは二人にめちゃくちゃに甘い。訓練っていうよりじゃれ合いになるんだろうなと、想像したらおかしくなってしまった。
「本当に、何と言ったらいいのか…。」
「いいんだよ。私も暇をしているところだ。」
ラルフさんは最近、仕事のほとんどをエバンさんに任せ始めている。
だから家にいる時間も増えてすることがないっていうのは本音なんだろうけど、育児というものは時に戦争よりも激しくなることもある。と、思う。
「駄々をこねたらいつでも連れてきてください。」
「ああ。その時は頼む。」
「二人とも、いい子にするんだよ!」
二人は私の言葉も無視して、「じぃじ、あっち!」と楽しそうに言っていた。ラルフさんは片手にひとりずつ、二人を同時に抱きかかえて、「行こうか」と楽しそうな顔をした。
「あ、そうだ。」
今にも部屋を出て行こうとしたその時、ラルフさんがこちらを振り返った。
どうしたんだろうと思って首を傾げてみると、ラルフさんはやっぱり穏やかな顔をして笑っていた。
「破産しない程度に頼む。」
「かしこまりました。」
もちろんです。むしろ資産を増やしてみせます。
と、去っていくラルフさんのたくましい背中に言った。
私は等身大の自分を受け入れてくれるこの家の人たちに恩返しをする意味でも、このプロジェクトを絶対に成功させるんだって心に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます