第51話 お商売がしたいんです


朝起きて支度をされながら、自分に出来ることを真剣に考えてみた。

関税を付けたり輸出を制限してもらったりしてリオレッドのドレスの流通量を抑えるっていうのは、今の状況を緩和するのに一番手っ取り早い方法ってのは確かなことだ。


「要はテムライムのドレスをたくさん売ればいいってことよね。」

「え?」


でもそれは言い換えれば、"リオレッドのものよりテムライムのものが売れるようになる"状況を作れば解消される問題でもあると思った。



「ね、ティーナ。今からちょっとの間だけ、給仕さんたちを集めてくれない?」



珍しくだまっていたかと思ったら急に訳の分からない発言し始めた私を、ティーナはとても不思議な顔でみた。でもその言葉を聞いてすぐ「かしこまりました」と言って支度をササッと終えた後、マリエッタさんに話をしに行ってくれた。





ディミトロフ家には合計、10人の給仕さんたちが働いている。

家族の人数より多いってどうなのと最初は思ったけど、聞いてみると騎士団の食事とか服飾のお世話もしているらしいから、むしろ数が足りていないらしい。



「みなさん、お忙しいところすみません。」



その10人の給仕さんたちを、マリエッタさんはすぐに食堂に集めてくれた。急に私に集められたことを疑問に思っているのか、みんなキョトンとした顔で椅子に座っていた。



「今日は皆さんに聞きたいことがあって。」

「聞きたい事、ですか?」



10人の中には私とあまり関わりのない人もいるから、もしかしたら怖がっている人もいるかもしれない。そんな空気を察したのか、私に真っ先にそう言ってくれたのはマリエッタさんだった。



「そうなんです。今から聞くことはすごく私的な質問なので、隠すことなく素直な意見を聞かせてもらえると嬉しいです。」



とはいっても雇い主から集められて急に質問されて答えるのはきっと緊張するだろう。だから私は出来るだけ緊張がほぐれるように、「えっと」と言って言葉を崩した。



「今皆さん働いていただいている間は、ディミトロフ家から支給された服を着ていらっしゃるでしょう?」

「ええ、そうです。」



この家で働いている人たちは、襟の部分に紋章の入ったワンピースのような服を着ている。それは私のイメージする"The メイド服"って感じの印象の服で、ディミトロフ家のデザインのものは他と比べてもとてもかわいいと思う。



「昔からずっとこの服を着ていると聞きました。」

「そうですね。私がディミトロフ家にお仕えし始めた時から変わりませんから、もう少なくとも30年ほどはこれです。」



マリエッタさんは私の言葉にそう答えたくれた。レトロっぽくてかわいいなとも思うけど、30年前から変わっていないという事には少し驚いた。



「すみません、前置きが長くなりました。」



私が知っている情報は合っているようだったから話を戻した。みんな相変わらず背筋を伸ばして私の方を見てくれていた。



「今のドレスに何か不満なことがあれば、皆さんにお伺いしたいんです。」

「不満なんて、そんな…っ。」



私の質問に、給仕さんの一人が言った。

そう言えば、この家の給仕さんたちのほとんどは行き場所をなくした人で、それをおじい様やラルフさんが連れてきたっていう話を聞いたことがある。だからきっとディミトロフ家に対してとても恩を感じてくれているんだろうなってのが、その一言で伝わってきた。



「違うんです。」



でも違う。不満を聞きたいというより、私は今の服を改善したいと、そう思っているだけだ。私が勝手に考えてもいいんだろうけど、でもそれでは意味がない。



「今のドレスを改善して、みなさんにもっと快適に働いていただきたいと思ってます。それも一つの目標ですが…。私はその改善したものを全国に売り出したいって思ってるんです。」



これ以上謙遜されてしまわないように、私は正直に目的を話した。するとみんなすごく驚いた顔で、私の方を見ていた。



「ただのわがままなの、皆さんに時間をいただいたのも。お商売がしたいんです。だから皆さんにしか分からないこと、私に教えてください。」



その言葉を聞いて、みんな一度うつむいた。

予想はしていたけど、思っていたよりずっとみんな話辛そうだ。みんなの意見を取り入れてよりよくしようって思ったけど、かえって余計なお世話だったかもしれない。



「まず…。スカートの裾が邪魔になることが多々あります。」



ティーナだけに聞けばよかったかもしれない。

私が後悔し始めたその時、最初に口を開いてくれたのはマリエッタさんだった。



「わ、分かります…。下が見えなくて…。」



マリエッタさんに続くようにして、一人の女の子が勇気を出して言ってくれた。



「あと、手の裾がすごく汚れてしまいませんか?」

「そうなのよね!他は大丈夫でもここが汚くて捨てなきゃいけなかったりして…。」



すると次々に、みんな声を上げ始めてくれた。そしてみんなはどんどん積極的に意見を言って、最初の静寂が嘘みたいに食堂が盛り上がり始めた。



嬉しくなった私は、その光景をただほっこりした気持ちで見つめていた。でもしばらくしてハッと我に返った後、すべての意見を聞き洩らすことのないようにメモをし始めた。



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