第44話 ドキドキのイベント、スタートです!


「リア、行こうか。」



ティーナを送り出してそわそわしているうちに、あっという間にエバンさんが迎えに来た。私はいい子にしている二人にキスをして、「お願いします」と言ってマリエッタさんに預けた。



「うまく、行くといいな。」



その時が近づくにつれて、なぜか私がドキドキとし始めた。するといつの間にか力が入っていた私の手を、エバンさんが優しく包み込んだ。



「大丈夫。見守ろう。」



"大丈夫"と言ってもらえるだけで、どうしてこんなに心強いのだろう。

さっきまで力が入っていたはずの手はいつの間にか緩んでいて、手のぬくもりを確かめるみたいにエバンさんの手を握り返した。



「いつぶりだろうね、二人で出かけるの。」



エバンさんに言われて改めて思い返そうと思ったけど、いつだったか全く浮かばなかった。カイトとケントが生まれて私の生活はさらに幸せになったけど、たまにはこうやって二人で出かけるのも悪くないなと思った。



「エバンさん?」

「ん?」

「好きっ。」



なんだか言わないと気がすまなくなって、今度はエバンさんに腕を絡めながら言った。するとエバンさんは顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。



「不意打ちは、ずるい。」



何年たってもこんな初心な反応が出来るなんて、なんて可愛い人なんだろう。おかしくなってクスクス笑っていると、エバンさんは「リア」と優しい声で私を呼んだ。



「…っ!」


声に反応して顔をあげた私に、エバンさんが不意打ちでキスをした。驚いたのと恥ずかしさで、今度は自分が赤くなるのが分かった。



「仕返し。」



得意げな顔でそういうエバンさんの頬は、さっきより赤く染まっていた。「自分の方が照れてるくせに」と言ってやろうかと思ったけど、それは黙っていてあげることにした。



運転手も無視して私たちがイチャイチャしている間に、馬車は会場の近くに到着した。私はいよいよ高鳴り始めた胸を何とかしずめながら、祭りの最後のイベントが行われるという広場へと、エバンさんに連れられて行った。



「ここが見やすいと思う。」



広場の近くにある段差のあるところで、エバンさんは足を止めた。確かにその場所は広場を広く見渡せるところで、どこから二人が来たって見つけられそうだと思った。

広場にはすでにたくさんのロウソクが並べられていて、みんなそわそわしながらその時を待ちわびているようにも見えた。



「なんか…ドキドキする。」

「ふふ、そうだね。」



さっきまでだってドキドキしていたけど、みんなのドキドキが伝染したみたいに私の心臓は大きな音をたてはじめた。落ち着かなくなった私はエバンさんの腕にさらにくっついて、今か今かとその時を待った。





しばらく雑談をしている間に、どんどん辺りが暗くなり始めた。いよいよかと思ってさらにソワソワしていると、祭りのスタッフさんが広場の後ろのほうにあるキャンプファイヤーみたいなところに火を灯した。



「お、始まるね。」



火が灯ったのを合図にして、集まっていた人々がそのキャンプファイヤーへと近づいて行った。そして自分が持っている長い棒のようなものに、その火を移し始めた。私はキョロキョロとあたりを見渡して、ティーナとブルース君の姿がないか必死に探した。



「リア、あそこにいる。」



エバンさんの指差した方をみてみると、そこには確かに、ぎこちなさそうな様子で一緒に火を持っている二人の姿があった。



「ほんとだっ!」



二人の間にある少しの距離感が、もどかしくてあたたかかった。二人はその微妙な距離を保ちながらゆっくりと、一つのロウソクの方に向かっていった。



「頑張れ…っ。」



だいたい広場にいる全員に火が渡ったのを確認して、スタッフさんはみんなに合図を送った。すると火を持っている人たちが全員一斉に動き出して、たくさん置かれているロウソクたちに火を灯し始めた。



あまり訳が分かっていない様子のティーナも、ブルース君に促されるようにロウソクに一歩近づいた。暗いはずなのに二人の頬が赤く染まっているのが見えた気がして、私はほっこりした気持ちのままジッとその光景を眺めていた。

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