第39話 私を信じてっ!
「ティーナ。ブルース君と結婚したい?」
そしてその次の日。私はもうなんのためらいもなく、朝の支度をしてくれているティーナに言った。
「え?!ええ?!リア様、何を…。」
いつも私がどんな突拍子のない事を言っても、ティーナはだいたいのことに驚かない耐性がついていると思う。でも今回はさすがに大きく動揺して、手を止めてしまった。
「余計なことは考えずに、質問に答えて。ブルース君が好き?」
「えっと、あの…。私はそんな…っ。」
「余計なこと考えるなって言ったでしょ?」
脅しみたいな言葉だなと思った。でもこれくらい言わないときっとティーナは「私なんかが」とか「リア様にお仕えしてるから」とかいうだろうなと思って、あえて強く言った。
「えっと…。お、お慕い…しています…。」
すると私の脅しに折れて、ティーナは小さい声で言った。最初に比べたらずいぶん自分の意見が言えるようになってきたなって、なんだか嬉しくなった。
「よし。じゃあお祭りに一緒に行きなさい。」
「えぇ?!」
ティーナは完全に手を止めて顔を真っ赤にした。恋する女の子って本当にかわいいなと思った。
「あのお祭りの言い伝え知ってる?」
「最後のロウソクの…お話ですか?」
「そうそう。よく知ってるじゃん。」
「給仕室で聞きました」と、ティーナは小さな声で言った。女の人ってもれなくそういう話好きだよなと思ってみたけど、私もその一人だから人のことは言えない。
「多分誘ってくれると思うから、ちゃんと行くんだよ。」
「そ、そんな…っ!お誘いなんて…されるはず、あ、ありません。」
昔みたいに言葉をどもらせてティーナは言った。すごく懐かしいなと昔を思い返しながら、「誘われたらでいいから」と付け足した。
「誘われなかったらそれでいい。でも誘われたら断っちゃダメ。」
「い、いや…そんなっ。」
「ティーナ。」
まだ結婚とか出産とか、そんな話をするのは早いと思う。
今そんな話をしたら昔で言う"パワハラ"とか”セクハラ”にあったってしまうし、それにまだどうなるかもわからない。でもきっと先手を打っておかないと、ティーナはお断りしてしまうんだろうなと思ったから、私は話をそこで止められなかった。
「ティーナにだって、普通に恋をしてほしいし、いつか家庭を持ちたいって言うならそうして欲しいの。」
「いくらリア様の頼みでも…」
「それでね。」
予想通り「できない」と言おうとするティーナの話をあえて遮った。いつも途中で話を遮るなんてしないせいか、ティーナはすごく驚いた顔をしていた。
「結婚をしたとしても、例えばもっと先の話になるけど、子どもが出来たりしてもね。私はティーナを手放す気はないよ。」
「え…?」
「そうならない方法を考える。結婚してもティーナが働ける方法を。」
もう考えているっていうのは、言わなかった。それを言えば本当にプレッシャーがかかってしまうし、それこそパワハラになりかねない。でもティーナはこの期に及んで、「そんな…」と謙遜をしていた。
「ティーナ。」
「はい。」
ティーナが今何を考えているのかはよく分からなかったけど、私みたいに思考回路が迷宮入りする前に止めなくてはと思って名前を呼んだ。するとティーナはいつも通り、歯切れのいい返事をしてくれた。
「私が今まで思ったこと実行できなかったことあった?」
ティーナに笑いかけながら、自信を持って言った。するとティーナは少し困った顔で笑いながら「なかったです」と答えてくれた。
「だからどうなったって、私たちが離れないような方法を考えて実行する。信じて。」
今度は強い目をして、ティーナを見た。するとティーナは少し泣きそうな目で、しっかりと私の目を見つめてくれた。
「私を信じて、ティーナは自分の気持ちに素直に動けばいい。」
"結婚は好きな人とするものだ"
あの日メイサに言った言葉は、アルから自分へと返ってきた。そして今度またティーナにそれを投げかけると、ティーナはやっと小さくうなずいて「はい」と言ってくれた。
エリスはきっともう、ブルース君に話をしてくれているだろう。私はますます来週の初めてのお祭りが、楽しみで仕方なくなった。
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