第37話 やっぱり全てはあの人に繋がっているらしい


「早急にその案をみんなに提案させてもらうよ。」

「ありがとうございます。」


ここまで来たらもう出る幕はないと思って、王様とロッタさんにすべてを託すことにした。ロッタさんは早速と言わんばかりにバンクの代表者の人と話をすると出て行ってしまって、取り残された私も邪魔にならないうちに帰ろうと決めた。



「送って行くよ。」

「そんな…。」



帰ろうとする私に、王は言った。

この国のトップにお見送りをしてもらうなんてさすがに申し訳ないと思って断ろうとすると、王様は穏やかに笑って首をゆっくり横に振った。



「もう少し話がしたいんだ。」



そこまで言われて「嫌だ」と言える勇気はさすがにない。

私は王様の言葉に「それでは、お願いします」と反応して、出口の方へとゆっくり足を進めた。



「テムライムでの生活はどうだい?もう慣れてくれたかな。」



引っ越しから結婚。そして妊娠、出産…。

この1年半で本当にいろんなことがあった。テムライムでの生活に慣れるというより、育児という新しいことに慣れる事の方がよっぽど大変だったように思う。



「はい。皆さん暖かいですし、食べ物もすごくおいしいです。」

「そうか。よかった。」


すると私の言葉を聞いて、王はすごくホッとした顔をした。

どうしたんだろうと思って王様の顔をみると、本当に安心した顔でにっこり笑ってくれた。



「体調を崩したと聞いた時は本当に心配してたんだ。君はカイゼル様の大切な孫娘でもあるし、テムライムに来て弱らせてしまったなんてなったら、申し訳が立たない。」

「そんな…。」



自分で勝手に病んだだけなのに、っていうかむしろ妊娠に気が付いていなかっただけなのに、王様にまで心配をかけていたことが本当に申し訳なくなった。これからは誰かのためにも自分の体調管理をしっかりしないとなと、改めて思った。



「よそ者の私を王城に招いていただいて…。意見まで聞いていただき、本当に感謝しています。愛する人との暮らしも楽しいですし、テムライムに来られてよかったです。」



心から思っていることを口に出して言った。すると王はにっこりと笑った後、「そうか」と言った。



「惚気まで聞かせてもらって…。よかったよ、話が出来て。」

「す、すみません…っ。」



"愛する人"なんていう言葉が自分の口からすらっと出たことに、自分でも驚いた。20年以上たってついに染まってしまったなと思うと、一気に恥ずかしくなった。



「もうすぐ祭りだ。君がもっとテムライムを好きになってくれると嬉しい。」

「はい、すごく楽しみにしてます。」



祭りの話をされて、同時にティーナのことを思い出した。

今がチャンスだと思った私は、もう一つ考えていることを王様に話す事にした。



「これはただの雑談ですが…。」

「うん。」

「リオレッドから連れてきた使用人のティーナが恋をしていまして。祭りで後押ししようと思っています。」



本当に何の話だって顔をして、王様は私を見た。

内心「ごめんなさい」と思いながらも、話をやめようとは思わなかった。



「ですが彼女は私が後押ししても、私に仕えたいからとその申し出を断るかもしれません。だからエバンさんが帰り次第、提案しようと思っていることがあるんです。」



本当は国として"育休・産休制度"が整えばそれでいい。

でもまずは試してみるためにも、"ディミトロフ家の制度"として運用を始めたいと思っていた。だからエバンさんに話すのが先なんだろうけど、これがチャンスと言わんばかりに私は先に王に話を始めてしまった。


ごめん、エバンさん。てへっ。



「もしティーナが結婚して子供が出来たとなっても、ティーナには仕事を辞めずにいてもらおうと思います。ですが出産・育児となると、おやすみをせざるを得ない時が来ます。

そのおやすみ期間中、ある程度の報酬を支払って、生活が出来るように保護します。その代わり一定期間を過ぎたらまた戻ってきてねと約束をしてもらうこと、提案しようかと思ってます。」



すらすらと話す私の言葉を、王様は無言でうなずきながら聞いてくれた。私はそれに甘えて、どんどんと自分の考えを話し続けた。



「私としてもティーナは手放したくないほど優秀な仲間です。それにこの国でも人手不足が深刻化している中、結婚を理由に女性の働き手を失うのはすごく痛いと思うんです。」



コンテナを作るために階級外の人たちに少しずつ働いてもらっているとはいえ、まだまだ働き手は少ないと聞いた。働ける女性がいるのに働く環境が作れないというのは、すごく大きな問題だと思う。



「いつかそんな制度が浸透して、出産しても働きたい女性を応援したいなと、ぼんやり考えています。」



きっとこの制度は、貴族の嫁をしている私、そして2児のママでもある私が進めて行くのが一番説得力がある。今までで一番自分に適任の仕事を見つけたと思って自信を持って王様に話をすると、王様はやっぱり穏やかな顔をして私を見ていた。



「君を見ていると、カイゼル様を見ているような気持ちになるよ。」



さっき私がテムライム王を見ていて思ったことを、彼は言った。それがおかしくて思わず笑ってしまうと、王様は不思議そうな顔をしてこちらを見た。



「すみません。私も先ほど同じことを考えていたので。」



正直に言うと、王も同じように笑った。私たちの間に流れる空気がすごく柔らかくて、とても心地よかった。



「僕たちはきっと、目指している人が同じなんだね。」

「ですね。」



王城をゆっくり歩いている私たちを見ていたのは、警護の人たちだけなはずだった。それなのに何か暖かい視線をどこかから感じた気がして、またじぃじのことをぼんやりと思い出してしまった。



いつか私たちは、あの人みたいな暖かい人になれるんだろうか。



何も言葉は発しなかったけどきっと同じことを考えながら、私たちは出口へとゆっくりと歩みをすすめた。


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