第36話 要は"助け合い"をするということ
「失礼いたします。」
ティーナのことも進めなきゃいけないんだけど、まず対策すべきは貨物の破損の件だった。私は1週間をかけてゆっくり練り上げた案を持って、王様の部屋へと来た。
「よく来たね、リア。」
「お久しぶりです。」
呼ばれるがままに部屋に入ると、そこにはロッタさんもいた。私から話って言えばロッタさんもいた方がいいと思ってくれた察しの良さに、少し感動すら覚えた。
「すみません。お忙しいところ。」
「いや、それはこっちのセリフだ。毎日育児に忙しいだろうに…。ありがとう。」
まるでじぃじと話しているみたいだと思った。
これまでだって何度もテムライム王のすばらしさには触れてきたつもりだったけど、年々察しの良さや気遣いは洗練されている気がする。
私は少し懐かしい気持ちと同時に寂しい気持ちも抱えながら、案内された席へと座った。
「早速、お話してくれるかい。」
私の時間が限られていることを察してか、王は席に着くや否や話を促してくれた。私はお言葉に甘えて「ありがとうございます」と言って、話を始めることにした。
「先日、船を見に行ってきたんです。」
「はい、お伺いしました。言ってくだされば案内させていただいたのに…。」
ロッタさんは申し訳なさそうな顔をして言った。私はそれを両手を振って否定して、「突然だったので」と言った。
「その時偶然耳にしたのですが…。最近天候が悪くてコンテナの破損が多いというのは事実でしょうか。」
ロッタさんはすごく困った顔で「ええ…」と言った。
ここで「そんなことありません」なんて否定されなくてよかったと、内心ホッとした。
「自然のことなのである程度仕方がない事もあると思うんですが…。このまま破損が続けば損失も大きくなるのではないかと心配しています。」
ロッタさんの言葉に、王は何度もうなずいていた。私も「そうですよね…」と言って、ロッタさんに同調した。
「自然のことだから仕方ないというのは本当にそうだと思います。だからと言って取引をやめるわけにもいきませんし、天候が今後どうなるかというのは神のみぞ知ることです。」
「はい、その通りです。」
「なので…。」
私がそのまま話を続けようとすると、ロッタさんはすごく真剣な顔で私を見ていた。ロッタさんの目からはたくさんの期待みたいなものが伝わってきたから、その期待に応えるためにも出来るだけ堂々とした姿勢を作って話を続けることにした。
「そう言った時のために、みんなで助け合うというのはいかがでしょうか。」
「みんなで、助け合う?」
前世では自然と使っていた"保険"という言葉を、かみ砕いて説明するにはどうしたらいいのかとすごく考えた。当たり前のものとして考えていたからこそ、改めて説明しろと言われると難しかった。
でもそもそも"保険"ってなんだろうと考えた時、それは"助け合い"なのではないかという結論に達した。
「予期せぬ事故や自然災害に見舞われたときのために、あらかじめ円を出し合って貯めておくんです。そしてもしその円を出し合った誰かの商品がトラブルにあった時、貯めた分から円を出してその人を助け合うという制度を作るんです。」
前世ではすごく細かく色々な保険が存在したけど、簡単に言えば全員で資金をためて何かあったときにはそこからお金を出してもらうというのが、そもそもの保険の仕組みだ。
資金を貯めるというのは誰かを助けるためでもあって、それでいていつか自分のためにもなることだ。難しく考えていたけどシンプルに考えれば結構簡単なことじゃんと思ってその通り説明すると、王は「なるほどな」と一言言った。
「実は私もどうにか出来ないかと考えていたところだ。国と荷主で損害の負担を半分にしたら負担が減るのではと考えていたが…。」
「それも一つの手だと思います。」
昔、保険というものが前世で出来上がる前には、船主と荷主でトラブルに見舞われた時の負担を分けていた頃があったという話を聞いたことがある。それだって立派な"保険"の一つだ。
「例えばその役割をバンクがする、というのはどうでしょうか。」
「バンク、が?」
でも"助け合い"だからとはいえ、もし誰かが少しでもお金を稼げる制度が出来るだとしたらそれに越したことはない。
「例えば荷主は、バンクにあらかじめ一定の円を支払います。そしてその代わりにバンクはもし荷物に何かがあった時、かかった費用のすべて、もしくは一部を負担するという約束をします。もし何もなかった場合、最初に支払われた円はバンクの儲けに、そして次回誰かが災害に見舞われた時の保証の足しになります。」
「国が単純に負担するだけでは生まれない"利益"を、バンクに作るということだな。」
私が言いたかったことの根本を、王様が一言でまとめてくれた。もう大丈夫だなと思いながら、「そうです」と笑顔でうなずいた。
また新しい何かがここから始まる予感がした。久しぶりのワクワクする予感が胸をくすぐって、もっと仕事がしたいと思い始めている自分がいた。
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