第28話 久しぶりの外出


それから半年間、私は生きてるか死んでるか分からないような多忙な毎日を送っていた。子供を育てるのは大変だって話はもちろん聞いたこともあるし、そうなんだなと思ってはいたけど、こんなにも大変だとは思っていなかった。



「リア、じゃあ僕…。」

「行ってらっしゃい!気を付けてね。」



エバンさんは今日から、また長期で遠征に行くことになっている。

本人は私がまたあんな状態になるんじゃないかって心配しているみたいだったけど、でも寂しいとかそんなこと気にする暇がないくらい、毎日は目まぐるしい。



「ちょっと…、なんか寂しいんだけど。」



さっぱりした私を見て、今度はエバンさんが寂しそうな顔をして言った。立場が逆転したと思うとちょっとおかしくなったけど、笑ってしまえば怒られそうだったから、顔を隠すためにもエバンさんの頬にキスをした。



「待ってるね。」

「うん。」



するとエバンさんは満足したような顔になって、元気に遠征へと出かけて行った。遠くなっていく大きな背中に向けて、「無事に帰ってきますように」と一言付け足しておいた。



「リア様、そろそろ。」

「あ、はい。今日はカイトからね~。」



エバンさんが出発してすぐ、ティーナからカイトを受け取っておっぱいをあげた。

最近前みたいに仕事という仕事は出来ていないけど、私の出る幕なんかなくロッタさんやパパが仕事を進めてくれているみたいだったし、何よりこれこそ今の私の仕事だ。



「よく飲まれますね。」

「うん、ほんとね。」



大変だ大変だとは言うけど、ティーナやマリエッタさんがまるで自分の子どもみたいに世話をしてくれるから、私は他の人に比べればずいぶん楽をしていると思う。今日もカイトにおっぱいをあげている間は、ティーナがケントを抱いてくれている。


今日もみんなの力を借りて育児が出来ていることに感謝しながら、一生懸命おっぱいを飲んでいるカイトに「すくすく育てよ」っていう魔法をかけておいた。



「リア様、本日は街の方に買い物に行ってきます。」



おっぱいを飲んで満足した顔で二人が寝た頃、ティーナがいそいそと準備をしながら言った。「お願いします」と言っていつも通り送り出そうとしていると、カイトとケントの洗濯物を取りに来てくれたマリエッタさんが、「リア様」と唐突に私を呼んだ。



「一緒に行かれてはいかがですか?」



突然の提案に驚いてマリエッタさんの方を見た。すると彼女はにっこりと笑ってこちらを見ていた。



「たまには外の空気をすって気分転換してきてください。二人もぐっすり寝てますし…。運動するのも大事ですよ。」



確かに最近、ずっと家にこもった生活をしている。二人がいるから仕方ないことだし、別にそれでめちゃくちゃストレスが溜まっているかって言われたらそうではないんだけど、提案されたら何となく街を歩きたい気持ちになってきた。



「いい、んですか…?」



でも母親が子供を置いて出かけるなんて、してもいいものだろうか。

ためらいながらそう聞くと、マリエッタさんは笑顔で「もちろんです」と言った。



「エバン様がおられると、心配されると思うので…。今のうちです。」



するとマリエッタさんは少し悪そうな顔をして言った。

妊娠した時にあそこまで体力が落ちたこと、そして出産のときに半分死にかけたってものあって、エバンさんの心配症はどんどん加速していた。私が夜中目を覚ますだけで「大丈夫?」と聞くし、ちょっと眠そうにしているだけで早く寝ろとしつこいほどにいわれる。


マリエッタさんは毎日のようにそれを目にしているから、多少同情してくれているんだと思う。

私は決してそれをストレスには思っていないし、むしろ愛されてるなって毎日実感しているくらいなんだけど、たまには羽を伸ばすのも大切だなと思い直して、マリエッタさんに「じゃあ…」と言った。



「ちゃんと見てますのでごゆっくり。二人でアイスカレーを食べてこられてもいいですよ。」

「はい。」



私のスイーツ好きはいつしか給仕さんたちの間でも有名になっているらしい。

それを多少恥ずかしく思いつつも、久しぶりの外出に心が踊りはじめた私は、急いでティーナに支度を整えてもらって家を出た。



街の様子はどうなっているのだろうか。少しは変わってるのかな。

もし船が港にいるなら、それも見に行けるだろうか。



さっきまではいくのをためらっていたっていうのに、馬車から見える景色に心を躍らせた。そんな私の様子を見てティーナは少し笑っていたけど、そんなことも気にせず流れていく外の景色を初めて見るかのように眺め続けた。

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