第27話 私の天使たち


目を覚ますと、いつもの部屋の天井が見えた。少し疲れは取れているみたいだったけど、もう体のそこら中が痛くて、まともに生きられそうにないなと思った。



「リア?」



相変わらず余計なことを考えている私の耳に、愛おしい声が聞こえてきた。声の方を眺めてみると、そこには心配そうな顔で私の手を握る、エバンさんの姿があった。



「リア。よく…っ。」



きっと"頑張ったね"と伝えたかったんだろうけど、エバンさんはそこで涙をたくさん流し始めた。いい大人が、しかも屈強な男の人が泣いているのが少しおかしくなって、思わず笑ってしまった。



「子ども、達は…?」

「大丈夫。ティーナさんやマリエッタさんが見てくれてる。」



泣いているエバンさんを置き去りにして、私は冷静なテンションで聞いた。

マリエッタさんは自分自身5人の子を持つ母親だ。私はとりあえずホッと胸をなでおろして、体を起こそうとした。



「いてて…。」

「無理しないで。リアだって危険だったんだから。」

「え?」



驚いて聞き返すと、エバンさんは不思議そうな顔をした。でもその後すぐ私の体をベッドに寝かせて、頭をなでてくれた。



「2日も寝てたんだ。」

「2日も?!」



5時間くらい寝てたんだと、思っていた。

でも聞いてみるとどうやら私は2日も死んだように寝ていたらしく、エバンさんは本当に私が死なないか心配で、2日間寝られなかったらしい。



「そっか…。」

「うん、だから今は…。」

「お願い、会いたいの。まだ抱けてないの。無理しないから、行かせて?」



自分でも自分の体がまだ万全でないことは分かったけど、でも産んでから一度だって我が子を抱けていない。今すぐにでも駆けだしたい気持ちを何とかおさえて言うと、エバンさんはにっこり笑って「わかった」と言った。



「立てる?」

「うん。」



そしてエバンさんはまるで老人を介護するみたいに、私の体を起こしてくれた。何も食べていないせいもあるのか少し頭は貧血気味でふらふらしたけど、歩けないほどではなかった。



「辛かったらおんぶするからね。」

「大丈夫だから。」



ゆっくりかみしめるように歩く私を、エバンさんはしっかりと支えてくれた。そうしてエバンさんに導かれるまま、2人のいる部屋へと向かった。



「失礼します。」



エバンさんは静かにそう言って、ゆっくりと部屋の扉を開けた。扉の中にいたティーナとマリエッタさんは私の顔を見て「リア様!」と小さな声で言った。



「二人とも、本当にありがとうございます。」



二人の腕の中には、まだ小さい天使が眠っているのが見えた。私は起こさないように慎重に2人に近づいて、その顔を覗き込んだ。



「…っ。」



言葉を失うほど、かわいかった。そしてもろくて、今にも壊れそうだった。壊れないようにそっと頬を触ってみると、二人とも少しだけ顔を歪ませた。



「あり、がとう…っ。」



私のところに産まれてきてくれて、本当にありがとう。

今まで私は、誰かの未来を作るって思っていたはずだった。でもこの天使のような寝顔をみていたら、"誰かの未来"じゃなくて、"我が子の未来"を守りたいと、無責任にそう思った。



「リア。」



涙を流し続けている私の肩を、エバンさんはそっと抱き寄せた。



「頑張ってくれて、本当にありがとう。」

「うん…っ。」



頑張ってよかったと、愛する人の子どもを産めて本当に良かったと、心から思った。2日前に死にかけていたことなんてすっかり忘れて、私は順番に、優しく二人を抱いた。



「お名前は、どうされるんですか?」



エバンさんに似た黒髪の子を抱いた私に、ティーナは言った。私はまだ短くてまばらな黒髪をそっと撫でて、「決めてるの」と言った。



「黒髪の子が"カイト"、そしてエルフの子が"ケント"。」



漢字で書くと、"海斗"と"剣斗"。

私が大切にしているものと、エバンさんが大切にしているもの。どちらもちゃんと伝えたくて、双子だって分かったときから男の子だったらこうしようと、決めていた。


カイトとケントなら、この世界でだっておかしすぎる名前ではない。それにエバンさんの髪の子に海を、私の髪色の子に剣をつけたのは、お互いのことを分かって助け合ってほしいという、私からのメッセージだ。



「いい名前だね。」



元々私が名前を考えていいと言ってくれていたエバンさんは、にっこり笑って言った。私はエバンさんと一緒に優しい気持ちで子供たちを見つめて、将来どんな子になるんだろうと、色々と想像を膨らませた。

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