二十一歳 保険制度・産休制度を作る

第26話 気が付かないとか、どうかしてますよね



「ぅう…っ!あぁ…っ!」

「リア様。もう少しです!」



ど~も。21歳のアリア・ディミトロフでっす!

あのうじうじしていた頃からはや半年がたちました。時の流れってのは恐ろしいですね。


はい。そんな私が今何をしているかと言いますと…。



「む、むりぃ、もう殺してっ。ティーナ、お願いいいいぃぃい。」

「リア様、大丈夫。大丈夫ですから。しっかりっ!」

「頭が見えてきましたよ!」



そう、お察しの通り、出産の真っ最中でございます。


あの体調不良も微熱も、そんでもって食欲不振も。

もちろんホームシックになった影響だってあったんだけど、ほとんどの原因が妊娠したことによるものだったらしい。


なんなら精神が病んだのだって、ホルモンバランスが崩れてたからってのもあって…。どうして気が付かなかったんでしょうね?


「ん”ん”…っ。」

「リア様、息!息止まってます!」



イリスに言われて妊娠に気が付いた後、本格的なつわりが始まったせいで私はまた痩せた。でも今度は原因がはっきりしていたから、辛かったけど病むことまではなかった。そしてつわりが終わったと思ったら私の体重は回復…どころかどんどん増えていって、今じゃ丸々の真ん丸になっちゃいました~!


まるで球体のように!てへぺろ!



ところでてへぺろって、今でも使えます?



「リア様、息吸って…っ!はいっ!」

「んんんんんん…っ!」

「その調子!いいですよ!」

「はぁああああああっ、んんんん~!!!」



「ぎゃあ…っおぎゃあ…っ!」



ティーナの合図に合わせて息を吐きながら踏ん張ったそのすぐ後、元気な泣き声が聞こえた。まだ姿を見ていないのに、声を聞いただけで目から涙があふれそうになった。


無事に生まれてくれた…、本当に…っ


「んん…あぁああ”っ、もう、むりっいぃいい。いや、いやだ…っ。」

「リア様、大丈夫ですか?お水飲みましょう。あとひと踏ん張りですっ!」



良かった。

と余韻に浸る間もなく、次の激痛がやってきた。

そうです。私、双子を妊娠していたんです。


エコーとかそういう最新機器がないこの世でも、お医者さんは双子が入っているといっていた。



んなまさかなと、今の今まで思っていたけども…。痛みの波はしっかりまたやってきた。




「ティーナ、私…んあ”あぁ…っ。」

「リア様、手握ってください!あともう少しっ!」

「ほら、息吸って!行きますよ!吐いて!!!!!!」

「んんんん…っ!!!」



もう本当に死にそうだって思った。

目の前がチカチカするくらいもう体力が奪われていて、本当に死ぬ寸前だった気がする。帝王切開とかそんなものが存在するはずないこの世界では、双子だって普通に産むしか方法はなかった。


2回を通して初めての出産だっていうのに、我が子を抱く前に死んでしまうのか…。ママ、そして前の世界のお母さん。命を懸けて産んでくれて本当にありがとう。そしてさよう…



「んぎゃあ…っ、ぎゃあ…。」



弱気になっている私の耳に、2回目の産声が聞こえた。

疲れているはずなのに涙があふれてきて、痛みに耐えてよかったと思った。もう嫌だけど。




「おめでとうございます。お二人とも元気な男の子です。」



疲れた体を持ちあげて、お湯で洗ってもらっている我が子を見て見た。目がかすんであまり見えなかったけど、一人は私に似た金色の髪を、そして一人はエバンさんに似た漆黒の髪をしていた。



これからどういう子に育つんだろう。

騎士になるのか、それともリオレッドでパパの仕事を継いでくれたりするのかな。



そんなことはひとまずどうでもいい。健康で育ってくれれば、なんだっていい。



「リア様…っ。」



ティーナは涙をいっぱいにためて、私の手を握った。これでは死ぬみたいじゃないかと思って、私は力を振り絞って笑った。



「ティーナ、ありがとう。」

「おめでとう…っ、ございますっ。」



ここまでついてくれて、そして今日だってこうやって付き添ってくれて、本当にありがとう。もうティーナは紛れもなく、私の家族だ。


そんな気持ちを込めて手を握り返すと、ティーナは涙をいっぱいにためたまま笑った。それで少し安心した私は、もう目を開いている元気もなくなって、そっと目を閉じた。



「リア様…っ?」

「大丈夫。でもとりあえず、ちょっと寝かせて…。」



目を閉じた瞬間、すぐに闇に襲われ始めた。

アリア・ディミトロフ21歳。鹿間菜月だったころを含めると、ピーーーーー歳。



みなさん。私ついに、ママになりました。

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