第24話 ついに、悲願の達成


パパとエバンさんは腫れものを扱うみたいにして、私を馬車に乗せた。お姫様扱いされすぎてちょっと面白くなるほどだったけど、調子に乗って大切に扱われることを楽しむことにした。



久々に外に出てみると、肌で感じる風や太陽の日差しがとても心地よかった。

それを私は胸いっぱいに吸い込んで、その代わりに今まで抱えていた負の感情をすべて体から吐き出した。




「おいで。」



馬車はすぐに港に到着した。

自分で降りれることくらい二人とも分かっているはずなのに、パパは手を差し出して馬車から降ろしてくれた。



「ありがとう。」



やっぱり調子に乗っている私は、パパと腕を組んで導かれるがまま歩いた。すると港にはルミエラスの船が停泊していて、周りでは忙しそうに人が動き回っていた。



「階段上れそう?」

「ふふ。大丈夫。」



大丈夫だって言ってるのに、エバンさんは心配そうな顔で私を覗き込んだ。もうそろそろ普通に扱ってほしい気もしてきたけど、でも心配をかけたのは私だ。


諦めた私はパパとエバンさんに支えられながら、ルミエラスの立派な船に初めて乗った。




「う、そ…。」



船の上に乗った私は、目の前に広がっている光景に驚いた。

さっきまで調子に乗っていたことなんて一気に忘れて、足が動かなくなった。驚きと一緒に湧き上がってくる嬉しさでもはや泣きそうになって、その場で言葉もなく立ち尽くすしか出来なかった。



「リア、大丈夫?」



私が動かないでいるのが心配になったのか、エバンさんが顔を覗き込みながら聞いた。やっと意識を取り戻した私は、エバンさんの言葉に一つうなずいた。



「出来たんだ。」



するとパパが嬉しそうな顔をして言った。その言葉でついに涙腺が崩壊して、とめどなく涙があふれだした。



「すごい…っ。」


私の目の前にあったのは、まぎれもなく"コンテナ"だった。

前の世界で見ていたものと形は少し違うけど、ルミエラスの船の上には大きな箱がいくつか並んでいて、今まさに荷下ろしの作業が行われていた。



「すごい…っ。」



本当にすごい。

コンテナを作りたいと言ったのは、半分賭けでもあった。技術的には可能だったとしても本当に実現するかはわからないと、そう思っていた。



でもルミエラスの人たちは、それをやってのけていた。

この世界で見れるはずがないと思っていたコンテナを見ることが出来たことへの感動は、涙になってどんどんあふれだしてきた。




「リアが、作ったんだ。」

「ちが、違う…っ。」



いつだって私はアイディアを出しているだけだ。

アイディアを出す事なんて簡単だ。そもそもコンテナだって、私のアイディアではない。


本当に大変なのは、アイディアを実現することだ。だからいつだって、私は何もしていない。



「ヒヨルドさんからの伝言。」



すると泣いている私の背中をポンとたたいて、エバンさんが言った。

声に反応してエバンさんの顔を見つめると、彼はとても穏やかな顔で笑っていた。



「本当にありがとうって。そして傷つけて本当に申し訳なかったってさ。」



ヒヨルドさんが謝ることではない。彼だってあの王様に振り回されている人の一人なんだから。


あの日ルミエラスに行くと決断してしまったこと、どこかで後悔している自分がいた。決断したのに結局私はたくさんの人を危険にさらしてしまって、ヒヨルドさんにだって迷惑をいっぱいかけた。



でももしルミエラスに行かなかったら、コンテナは今も出来ていないままだったのかもしれない。そう思うと少しだけ、気持ちが軽くなる気がした。



「もう一つ、伝言があるんだ。」



するとエバンさんは、穏やかな笑顔のまま言った。

やっぱりお前なんか嫌いだって言われたらどうしようとあるはずもない心配をしていると、エバンさんは今度は私の頭に手を置いた。



「名前を、付けてくれって。」



それは私にとって、何よりも嬉しい伝言だった。私はエバンさんに笑顔を見せた後、迷わずまっすぐ前を向いた。



「コンテナ。コンテナにする。」



あの日毎日のように口にしていた言葉を、かみしめるように言った。その響きが懐かしく頭の中にこだまして、また涙があふれてきた。



「どういう意味なの?」



パパは初めて聞く言葉を聞いて、困惑した顔をした。

パパの困った顔がちょっと面白くて、私は思わず「ふふふ」と声に出して笑った。



「秘密。なんとなく、コンテナ。」



私の顔を見て、パパはもっと不思議そうな顔をしていた。

でもエバンさんだけは「ふ~ん」と言って意味ありげな顔をした後、凛々しい顔をしてコンテナを見つめていた。

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