第23話 当たり前の幸せ
そしてその後夜に一旦目を覚ました時、エバンさんはしっかりと私の手を握ったままでいてくれた。さすがにお腹がすいてきた私はエバンさんと2人でご飯を食べて、今度は一緒に眠りについた。
「…んっ。」
「起きた?」
そして次に目が覚めると、もう辺りは明るくなっていた。
まだボーっとしている頭の中に響いてきたのは、すごく愛おしくて安心する声だった。
「おは、よう。」
「おはよ。」
エバンさんは肩肘をついて、私の頭を撫でながら言った。朝起きた時おはようと言ってくれる人がいる幸せをかみしめるためにも、エバンさんの胸に顔をうずめた。
「体調はどう?」
「うん、体が重くない。」
たくさん寝たおかげか、最近ずっと感じていた体の重さがマシになっている気がした。その言葉を聞いてエバンさんは「よかった」と言ったけど、まだ信じられないようで本当かどうか確認するみたいに私のおでこに手を当てた。
「まだ少し熱がある気はするけど…。すっきりした顔してるね。」
私はそんなにひどい顔をしていただろうか。
どうしてあんなに病んでいたのか自分で考えても今になってはよくわからなくて、久しぶりに会ったっていうのに不調な顔しか見せられなかったことを、初めてそこで後悔した。
「リア。無理はさせたくないけど、少しだけ外出できそう?」
「今日じゃないとダメなんだ」と、エバンさんは付け足していった。エバンさんの言う通り熱はまだ少しありそうな気がしたけど、動けないほどひどくはない。最近家にばかりいたから久しぶりに外の空気が吸いたい気持ちにもなっていた私は、エバンさんの言葉に「うん」と笑ってうなずいた。
「リア様、おはようございます。」
その後すぐ、エバンさんがティーナを呼んできてくれた。思えばこうやってお支度をしてもらうのも、すごく久しぶりな気がした。
「ごめんね、長い間心配かけて。」
「いえ。本当に良かったです。」
ティーナはすごくホッとした顔で言った。
たくさんの人に心配をかけてしまったなと思うと、早く元気にならないとという気力がどんどん湧いてきた。
「はい、お待たせしました。」
「ありがとう。」
久しぶりに化粧をして髪の毛をセットしてもらうと、なんだか気分がすごく上がった。復帰祝いにじぃじにもらったドレスを着せてもらったっていうのもあって、今日は一段と仕上がっている感じもした。自分で言っちゃうくらいに。
「リア、いい?」
「はい、どうぞ!」
するとその時、タイミングよくエバンさんが扉をノックした。走り出したいくらいの気持ちだったけどそれは怒られそうだと思ってゆっくりとドアの方に向かうと、開いた扉からはエバンさんとパパの姿が見えた。
「パパっ!おはよう!」
「おはよ、リア。」
明るく挨拶をする私をみて、パパもエバンさんもにっこり笑った。
2人の嬉しそうな顔を見ていたらなんだか私まで嬉しくなってきて、調子に乗ってその場でくるっと回って見せた。
「これ、じぃじにもらったドレスなの。どう?似合う?」
「うん。かわいいよ。」
どういう答えが返ってくるのか分かり切っているのに、あえて聞いてみた。そして予想通りの答えを返してくれたことに満足して、私はパパに抱き着いた。
「ごめんね、本当に。」
見たいものがあるから来たと言っていたけど、きっと私が心配で来てくれたんだろう。それに多分今頃リオレッドにいるママは、もっと心配しているに違いない。そう思って改めて謝ると、パパは頭を優しくなでながら「謝ることなんてないよ」と言った。
「誰だって体調が悪い時くらいある。今までが元気すぎたんだよ。」
「どういう意味?」
少し怒りながら聞くと、パパは豪快に「ハハハッ」と笑った。その笑い声を聞くのも久しぶりで、胸がいっぱいになった。
「だからって無理はしたらダメだからね?しんどくなったらいうんだよ。分かった?」
パパとイチャイチャしている私に、エバンさんはくぎを刺すように言った。まるでママと話してるみたいだなとおかしくなって、笑いながら「わかりました」と返事をした。
夜眠りについて、朝目覚めて、そして大切な人に"おはよう"を言う。すごく当たり前のことなんだろうけど、その"当たり前"がとても幸せに感じられた。
それになんだか今日はすごくワクワクすることが起こる予感がして、私は胸を躍らせながらエバンさんとパパの後ろをついていった。
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