番外編 ウィルの三角関係観察日記
僕がルミエラスに行く前、リオレッドは文明なんて何も発展していなくて、その日の生活さえできればいいってくらいの経済状態だった。
それでも充分幸せだったんだと思う。実際それでいいと思っていた人たちだって、たくさんいたと思う。でも初めてルミエラスの発展した文明を目の当たりにした時、僕たちももっとやれるんじゃないかと、そう思ってしまった。
そして多分その時、ゴードンさんだけが僕と同じ考えを持っていたと思う。小さいながらに何となくそれを理解していた僕は、彼に少し感化されつつ、ルミエラスに留学することを決めた。
高い理想を掲げてルミエラスに行って、気が付けば10年ほど経ってしまっていた。本当は1年だけ行く予定をどんどん伸ばしてしまったせいで、父や兄弟たちには呆れられている気がする。でも10年たったって学びきれないほど、ルミエラスには素晴らしいものがたくさんあった。
「すっご…。」
でもそろそろ僕もリオレッドのために動かなければ。
そう思って正式にリオレッドに帰国した時は心底驚いた。定期的に帰ってきていたとはいえ、ここ数年の繁栄は本当にめざましかった。
「ゴードンの娘のアリアがね。たくさん力を貸してくれたんだ。」
王様に帰国の報告をして繁栄に驚いたことを伝えると、返ってきたのは予想もしていなかった言葉だった。アリアちゃんって言えば、たしかアルとそんなに年齢の変わらない女の子だって記憶している。
「あの…、本当に…?」
王の言葉を疑うなんて、おこがましいことだとはわかっている。でもにわかに信じ切れなくて聞き返すと、王は豪快に笑った。
「信じられないなら会ってみるといい。ルミエラスとの交渉の話にもきっと知恵を貸してくれるだろう。」
王は後日、アリアちゃんと会う機会を作ってくれた。
部屋に入ってきたアリアちゃんに自己紹介をすると、王様は僕が帰ってきたことすら話してくれていなかったらしく、一瞬すごく驚いた顔をした。どんな顔をしても美しいなと、そんな不純なことを考えている僕に、アリアちゃんは丁寧にあいさつをしてくれた。
それから王にルミエラス行きを打診されたアリアちゃんは、一瞬すごく嫌そうな顔をした。ゴードンさんにだって事前にお願いをしていたはずなのに、王だけじゃなくてゴードンさんまでちゃんと話をしてくれていないのかと、申し訳ない気持ちになった。
☆
噂通りのキレイな子。
リアの第一印象と言えば、その一言に尽きる。
でもそれからリアと何度も打ち合わせを重ねていくうちに、王様がおっしゃられたことも本当だって実感できるくらいに、とても賢い子だってことが分かってきた。
「おい、デブリア!
それにリアにはそれだけじゃない、人を和ませるような魅力があった。僕がいないうちにリアはすっかりこの家の一員みたいに打ち解けていて、兄さんだってアルだって、あの父さんさえもリアにはメロメロだ。
「警護担当はジルにぃが良かったのにな~。」
「おい、
「ウソウソ、ちょうだい。」
それにアルはリアちゃんに恋愛感情を抱いているみたいで、いつもこうやってからかって遊んでいる。今まで何もしてやれなかったから、お兄ちゃんとして何かアシストをしてあげたいけど、アルもいい大人だと自分に言い聞かせて二人のことを見守るようにしている。
もうすぐ、リアをルミエラスに連れて行ける。リオレッドをここまで発展させたというリアをルミエラスに連れて行ったら、どんなことが起こるのだろうか。
想像しただけでアルの恋愛のことなんて忘れてワクワクし始めている自分を、僕は隠し切れなかった。
「それじゃパパ、ママ。行ってくるね。」
出発当日。ゴードンさんとアシュリーさんが名残惜しそうな顔をして、リアを見つめていた。二人の顔を見ていたら結婚前の若い女の子を他の国に連れて行きたいなんて言ったことを、後悔しそうになった。
「仕事のことは私に任せて、ゆっくり休んでねって伝えておいて。」
リアは寂しそうな顔はしていたけど、やる気に満ちた目で王への伝言をゴードンさんに伝えていた。そんなリアの目を見ていたら、後悔するよりも僕も頑張って出来るだけリアが早く帰れるようにしなくてはいけないなって気がしてきて、さらにやる気が湧いてくる感じがした。
「お待たせ致しました!」
するとその時、ちょうどテムライムの方たちが到着したようだった。久しぶりに会うロッタさんたちに挨拶をしていると、その横でリアは驚いた様子で騎士王の息子さんに挨拶をしていた。
「ウィリアムさん。お久しぶりです。」
「ああ。子供の時以来だね。すっかり僕より大きくなって。」
遠い昔エバン君に会ったことがあるけど、小さい頃は僕より体も小さくて、騎士になれるのかと思うくらい優しい子だったのを覚えている。なのにいつしか体はもちろん、堂々とした姿勢まで僕より大人に見えるくらい成長してしまったこと、すごく驚いた。
同じ年なはずなのに、アルが子供に見えるのは自分の弟だからだろうか。年齢の割に幼いところがあるのは事実だから、もう少し成長してほしいなと生意気に兄らしいことを考えていると、エバン君がリアに手を差し出して、
――――どうしてエバン君が…。
エバン君はテムライム側の警護としてきたはずだろうと思って二人の顔を眺めていると、なんとなく頬が赤く染まっているのが分かった。
――――なるほど、な。
「いや、リアはこっちだ。」
その光景を見て僕がすべてを察した時、後ろからアルが言った。アルは明らかに怖い顔をしてエバン君をにらみつけていて、それから二人はバチバチとした視線を送り合いながら、どちらがリアを
――――アル…。
お前ライバルがいたのな。
二人の様子をみても、アルの想いがまだ片想いなんだろうなってのは何となく察していた。でもリアはアルに心を許しているようだったし、アル以外に仲のいい男だっていないだろうから、チャンスはあると思っていた。
でもリアはエバン君を見て、明らかに頬を赤らめていた。リアの様子を見ていたら、ライバルっていうよりアルがすでに出遅れていることは明白だった。
本当はアルに加担してあげたい。でも出会ったばかりだけどリアはすでに僕にとっても大切な妹で、その妹を困らせるようなことはしたくないとも思った。
「リア、どっちにする。」
そんなことを考えているうちに、アルが怖い顔をしてリアにそう尋ねた。
両親不在で他の国に行くっていうのに、それ以外の負担をかけることが申し訳なくなって、僕はリアに寄っていって肩に手を置いた。
「リアは僕と乗るから。ね?」
もし僕の提案も断られてしまったらどうしようと内心思っていた。
でもリアは僕の顔を見て少しホッとした顔をした後、「はい」と笑顔で答えてくれた。
アルもエバン君も、僕のことをにらんでいた。
怖いなと思いながらも、絵に描いたような三角関係を見ていることが、面白いと思い始めている薄情な自分もいた。
――――弟よ。頑張れ。
兄は何もしてやれんが。
僕はどちらかというとリアの味方だから、この三角関係になにか手を加えようとは思わない。でもアルの実のお兄ちゃんとして、不服そうな背中で前を進むアルに、心の中で精一杯の応援だけはしておいた。
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