第68話 …へ?


ヒヨルドさんが信用状取引の話を王様にしたところ、案の定全てOKだと返事が来たらしい。思ったより滞在は長くなってしまったけど、とりあえず思った通りに交渉が進められたことをみんなで喜んで、その知らせから2日後に帰国することになった。



「今から、王様が会いたいんだって。」

「ええ?!」



帰国の前日、ウィルさんが急いで部屋に私を呼びに来たと思ったら、そんなことを言い出した。今回は偉い人には会わないで済むって思っていた私は、分かりやすく落胆してみせた。



「リア、ごめんね?でも最後の仕事だから。」

「はぁい…。」

「リア様!はやくこちらへ!」



後ろで話を聞いていたティーナは、別人みたいに素早く動いて私の支度をした。本当に気まぐれな王にはうんざりだなとグダグダ文句を言っている間に準備は終わって、そのまま何の余韻もなく馬車に乗り込んだ。…というより、詰め込まれたと言ったほうが正しい。


「はぁ。」


ロッタさんやテムライムの人たちも乗っているのに、間違えてため息をついてしまった。その声でみんながこちらを向いたから、とりあえず「すみません」と言った。



「お疲れですよね。滞在も長くなりましたし。」

「いえ、そんなこと…。」



気を使ったロッタさんが私に言ってくれた。

顔から火が出るくらい恥ずかしくなってうつむくと、横に座っていたアルが「しっかりしろ」と喝を入れてきた。



アルさん、今回に限っては反論の余地もありません…。



いやだいやだと思う気持ちをアルの一言で何とか抑え込んで、背筋を伸ばして椅子に座り直した。



「すみません、皆さん。突然呼び出しまして。」

「いいえ。お招きいただき光栄です。」



馬車はあっという間に王城へとたどり着いた。

街中もそうだけどルミエラスの王城は比べる影もないほど美しくて、思わず見とれてしまう。



「それではこちらへ。」



ヒヨルドさんは慣れた様子で、私たちを王様のいる方向へと案内してくれた。歩いている間も私はキレイな装飾や庭に思わず見とれて、「うわ~」とか「キレイ~」とかいう反応をいちいちしてしまった。



「こちらで王がお待ちです。」



今までリオレッドでもテムライムでも王様の部屋に行ったけど、どこの王様の部屋のドアもすごく大きい。ルミエラスの王様のドアも例外なく大きくて、ドアにもきれいな装飾がされていた。



「それでは、入ります。」



私が装飾に見とれているなんて気づくはずもなく、ヒヨルドさんはそう言った。するとゆっくりと大きなドアがまるで自動ドアみたいに空いて、中のもっと豪華な装飾が私の目に映り始めた。



「失礼します!」



ヒヨルドさんが大きな声でそう言ったのに続いて、私たちも部屋の中に足を踏み入れた。するとそこにはじぃじの部屋みたいなレッドカーペットがひかれていて、カーペットの先には同じように階段があった。

どこの国も王様の部屋の構造ってだいたい同じなんだな~と、のんきなことを考えた。


違ったのは王様の後ろに、キレイなステンドグラスのような装飾がされていたことだった。そのあまりの美しさと壮大さに驚いていると、知らないうちに足が止まっていたのか、後ろからアルに押された。



――――あ、やばい…っ。



アルのおかげで気を取り直した私は、今度はしっかりとウィルさんについて前へと足を進めた。

初めは遠くにいたから、王様の姿はほぼシルエットみたいにしか見えなかった。でも足を進めるにつれて、その姿は鮮明に、私の目に映り始めた。



王様は40代くらいの、小太りのおじさんだった。

それだけならいいんだけど…。足には白タイツ、カボチャみたいなパンツと"The 王様"みたいな恰好をしていて、その上剃った後のひげもなんとなく青く見えた。



――――え、きっも…。



正直な感想を、私の心が言った。

今までイケおじな王様にしか会ってなかったし、性格が終わってるうちのクソ王子も、見た目だけ見ればイケメンだった。


でもここの王様はもうなんていうか…。端的に言わせてもらうと、シンプルにキモかった。それにその容姿で女の人に膝枕をされて、階段の上で寝そべっていた。




「王様。リオレッド王国とテムライム王国からお越しいただいたみなさんです。」



ヒヨルドさんが私たちを紹介してくれるのに合わせて、私は丁寧に礼をした。すると王様は半分眠そうな顔をして、興味がなさそうに「そうか」と言った。



てめぇが呼んだんだろクソじじぃ。



と思いながらも、私はにこやかな顔で挨拶を終えた。するとその時、一瞬キモ王様と目が合った気がした。



「ほう。」



するとその直後、王様が目を開いて体を起こした。

そしてゆっくりと階段をおり始めたと思ったら、まっすぐに私の方へと、近づいてきた。




「お前は…。」



舐めるように私を見て、王様はそう言った。私はなんとか笑顔を保ちながら「リオレッド王国 アリア・サンチェスと申します」と、自己紹介をした。



「ふぅん…。」



そう言って王様はニヤついた顔のまま私の顎を持った。



大丈夫、すぐ終わる。すぐ終わる。



私は初めて自分が天使の容姿で生まれてしまったことを後悔しながら、鳥肌をなんとかこらえて笑顔を保った。



「ヒヨルド。」



するとキモおじさんは、私の顎を持ったままヒヨルドさんを呼んだ。ヒヨルドさんがそれに反応して「はいっ」と返事をすると、王様はこれでもかってくらい気持ち悪い顔でニヤケて、ヒヨルドさんを見た。



「この間、取引の条件はすべて飲むと言ったが、やはりこちらでも条件を設定する。」



お前この期に及んで何を言っているんだと、多分みんなが思っていた。

でも誰もそうは言えないからみんな黙っていると、今度は王様が私にグッと顔を近づけて、ニヤリと笑った。





「リオレッドやテムライムと取引をする代わりに、この娘と結婚することにする。」





…へ?


今、なんて??



言われた言葉はしっかり聞こえたはずなのに、頭が理解することを拒否しているように感じた。私はとりあえず顎を持たれたままどうすることも出来ずに、その場に立ち尽くした。


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