第67話 問題の火種を事前に消すという事
「おはようございます。」
「おはようございます。」
それから数日が経過して、いよいよルミエラスの人たちに信用状取引の説明をする日がやってきた。内容には自信があるけど実際に説明するとなるとやっぱり緊張して、朝からあまりご飯が食べられなかった。
「それでは早速ですが。リア、説明してもらえるかな?」
「はい。」
私はウィルさんに説明してほしいと言ったのに、ウィルさんは考えた人が話したほうが説得力があると、その役を私に任せた。そんなところで遠慮なんてする必要全くないのにと文句を言いつつ、私は出来るだけかみ砕いて、信用状取引についての説明をした。
「なるほど…。」
説明が終わると、ルミエラスの人たちはとりあえず内容は理解してくれたみたいな反応をした。これ以降はウィルさんが何とか頑張ってくれるだろうと無責任なことを思っていると、先にヒヨルドさんが「あの…」と話を切り出した。
「本当に、ありがとうございました。素晴らしい提案です。」
「ありがとうございます。」
あまりにもあっさりに受け入れられすぎて、私はあっけにとられながらも、とりあえずのお礼を言った。
「ですがヒヨルドさん。ルミエラス王国としてリオレッドやテムライムのバンクは信頼に足ると、判断してもらえるかがこの案の最大の問題なんです。」
するとウィルさんは、すごくあっさりと問題点について確認をした。するとヒヨルドさんは「そうだな」と言った後、少し下を向いてうつむいた。
「正直に申し上げます。」
しばらくすると、ヒヨルドさんは勢いよく顔をあげた。そしてあまりにも強い目をして私を見るもんだから、思わず身構えながら「はい」と返事をした。
「先日も申し上げましたが、寄付をしていただけると言っている王国に対して信頼ができるのかどうかなどと申し上げることが、本当に恥ずかしくて仕方ありません。」
すると次の瞬間、すごく申し訳なさそうな顔をしてヒヨルドさんは言った。驚きすぎて、反応がうまくできなかった。
「私たちの王は…。とても気まぐれな方で…。」
すごく遠回しな言い方をしているけど、この一言でヒヨルドさんが王様に振り回されているってことだけはよく分かった。
すべてを察した私は同情の目線で「そうですか…」と言った。
「ですのでこういった提案をいただいたと報告すれば、それだけで満足されると思います。」
なんだよ。
とりあえず言ってみたけど内容に関してはしりませ~ん!ってやつかい。
私が一生懸命考えた時間と、今朝緊張した気持ちを返してくれと思った。
「皆様にこのようなお時間をいただいてしまい…。本当に申し訳が立ちません。」
「いいえ、そんなことありません。」
っざけんなよ!と思いながらも、私の口はすごく優秀なことを話していた。すると私の言葉を聞いたヒヨルドさんは、うつむいていた目線を私の方に戻した。
「どんなことでも、やってみれば問題は発生し得ます。ですがその問題を事前に防ぐ決まり事を作る事で、それが大きくなるのを避けることが出来ます。信用状取引も問題の火種を消す一つの方法としてこれから活躍してくれると、私はそう思います。」
トラブルというのは、国交を結んでいくうえで避けられないことだ。
少しずつすり合わせをして修正していくしかないんだろうけど、問題が起こる前に予防策を作っておくというのは、すごく大切なことなんだと思う。
「このように考えるきっかけをいただいて、むしろありがたかったです。」
信用状取引というのは、お互いの信頼関係が築けてさえいれば、必要のないものともいえる。実際に前の世界でも、利用しているところは数回しか見たことがない。
でも制度を作っておくことで、今後取引が国と国ではなく、もっと細かくなり始めた時に活躍してくれるに違いない。
本気でそう思って言ったんだけど、ヒヨルドさんはすごく感動した目で私を見ていた。
「ウィル。本当にリオレッドの未来は明るいな。」
「はい。僕もそう思います。」
二人はそう言って、がっちり握手を交わした。そしてその後にロッタさんとヒヨルドさんもがっちりと握手を交わして、お互いの意思を確認した。
ああ、また。また新しい何かが始まる。
今この瞬間を写真におさめたいくらいだったけど、それがかなわない分、素晴らしい光景をしっかりと目に焼き付けた。
リオレッドだけでなく、きっと、テムライムやルミエラスの未来だって明るいはずだ。私はザックやティエルのことを思い出して、あの子たちがあの暗い場所から出られる未来が早く来ることを、祈らざるを得なかった。
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