番外編 テムライム王のリア観察日記
父さんが生きていたころ、よくリオレッドとの歴史を聞かされた。そしてその話を聞けば聞くほど、カイゼル様がどれほど素晴らしい王なのかを思い知らされた。カイゼル様より年齢が上だった父も、彼のことを深く尊敬しているみたいだった。
父のことも等しく尊敬していた私は、話を聞くたびに自分もいつか二人のような王になりたいという想いを強めていった。
そんな父は早くにあっけなく逝ってしまって、まだ全然学びきれていないうちに自分が王になることになった。正直、全く自信がなかった。でも王として情けない姿をさらすわけにもいかず、精いっぱい堂々として見せるようにしていた。
「王様、報告が。」
それでもやっぱり父やカイゼル様のように出来なくて、悩む日も多かった。そんな時に入ってきたリオレッドに関する報告は、耳を疑うような内容だった。
「カイゼル様が暴動を数週間でおさめた…。しかもそれが6歳の女の子の助言、だと…?」
カイゼル様はいつも謙遜した話し方をされるお方だ。かと言って嘘をついたり話を盛ったりもしない。だからきっとこれだって本当のことなんだろうけど、その報告だけではすべてを信じ切れていない自分がいた。
☆
それから10年ほどしたある日、リオレッドに
久しぶりにリオレッドに降り立つと、まるで別の国に降り立ったように景色が変わっていた。人々が当たり前のように
「こんなに…。」
リオレッドとテムライムは、昔はどこか似た風景をしていたと思う。そしてその後リオレッドが
訪問する前にカイゼル様に手紙を出すと、その返事には今のリオレッドがあるのは運送王とその娘さんのおかげだと書いてあった。その娘さんというのが6歳で王に助言をしたという少女という事は分かっていたから、その目で真実を確かめるべく、今回会議に参加してもらうようお願いをした。
「あなたが…。」
疑念を抱えたまま入った会議室で待っていたのは、想像もしていないほど美しいエルフのお嬢さんだった。お嬢さんは若いのに丁寧にあいさつをしてくれて、その美しさに思わず見とれてしまった。
それがリアとの出会いだった。
途中まではこの子が発展に寄与しているなんてと疑っていた私だったけど、質問に対して的確なことを堂々と答える姿を見ていたら、疑いの気持ちなんてすっかりなくなった。
ずっと運送王をテムライムに呼んで、テムライムの今の問題点を洗い出してもらおうという考えは持っていた。今回王にそのお願いをしようとも思っていたけど、会議をしているうちにリアも一緒に来てもらいたいという気持ちが湧いてきた。図々しくもカイゼル様に二人にそろってテムライムに来てほしいとお願いをすると、カイゼル様も二人も快くそれを引き受けてくれた。
「この度は、お世話になります。」
「いや、それはこっちのセリフだ。よろしく頼む。」
それから半年後。テムライムに到着した二人は、それから慌ただしく動いてくれた。本当は自分もいって一緒に考えたかったけど、それは宰相にも妻にも止められた。
自分の力が足りていないのに、他力本願でことを進めてもらうことがすごく申し訳なかった。それでも待つことしかできない私は毎日の報告を丁寧に聞いて、承認作業が滞りなく進むようにだけ心がけた。
約1か月後。二人が新しい提案と共に、城に来てくれることになった。
本当はそんなに拘束するつもりはなかったけど、結局1か月も自国を離れることにさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
二人が城に来る前、ロッタから今日はどんな報告があるのかの概要を聞いた。トラブルを避けるために新たに考えられた書類を使った方法は、よく考えられていて誰にでもわかりやすいと思った。
「会議はどんな風に進んだ?」
「えっと…。」
その提案をみて承認しない王がいるんだとしたら、そいつの目はくるっている。最初に目を通した瞬間にそう断言できるほど素晴らしい案だった。
こんな案がどうやって話し合われたのかが気になって承認を出す前に聞いてみると、ロッタは少し戸惑った顔をした後「アリア様がお考えになりました」と述べた。
やっぱりリアは本当にすごい子だと思った。
あの日カイゼル様が"リオレッドの繁栄はあの子のおかげだ"と断言したのにも、心からうなずけた。
それだけですごい事なのにリアは結局テムライムとリオレッドのドレスの違いに着眼して、それを仕入れたいと言い出した。
それを聞いた時、父の話を思い出した。
ある時単身でリオレッドの軍人のように大きい商人の男が乗り込んできて、
反対する声もあった中、父はその男のまっすぐな目を見て、
そして今、目の前にいる親子の目を見て、どこかで見ているかもしれない父さんに問いかけた。
――――本当ですね。
嘘のない目を、信じたくなります。
「今のドレスの件も書類で確認する件も、私ももちろん大賛成だ。」
反対する理由なんて一つも見つからなくて、自信をもって言った。するとゴードンもリアもキレイな目を輝かせて、「ありがとうございます!」と言った。
数日後開かれた晩さん会で楽しそうに食事をするリアの姿は、まぎれもなく10代の女の子だった。そんなリアの周りにはたくさんの人が集まっていて、きっとあの子にはキレイなだけじゃない魅力があるんだなと、ぼんやりおもった。
「君は将来、何になりたい?」
その後挨拶に来てくれたリアに、唐突に聞いてみた。いきなりそんなことを聞かれて一瞬驚いた顔をしたけど、リアはうつむいてしばらく考えた後、キレイな笑顔を見せてくれた。
「誰かの未来に、なりたいです。」
自信がない自分が恥ずかしくなるくらい、まっすぐで堂々とした言葉だった。
まだ私は尊敬する二人のような王にはなれていない。それでもいつか少しでも憧れに近づくために、前を向いて"未来のためになること"を自信をもってしていこうと、自分よりずっと若い女の子に教えてもらった気がした。
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