第15話 王様運最強の私


「一つ、新しい機関を作るんです。」



まだ見慣れない大臣たちが、みんな私を見ていた。

緊張しないわけがなかったけど、その中には優しい目で私を見てくれているラルフさんもいたし、王様も私が言葉を発する度、大きくうなずいて聞いてくれていた。



私は緊張を何とかおさえながら、私に慣れていない大臣たちを不安にさせないために、出来るだけ堂々と話を続けることにした。



「船で入ってきたものを検査する場所です。その検査に合格しない限り、国には入れられないとするんです。」



それは前世で言う、"通関制度"だ。

前世では世界中に何百もの国があって、その国によって違法なものや入国させてはならないものが違った。そこで入国前に入ってきた荷物に禁止されているものが入っていないか検査するというのが通関の一つの目的で、その他には税金の徴収や貿易統計の作成というのも目的としている。



後々関税が必要になったり、統計を取る必要が出来たらその仕事もすればいいのだろうけど、今はまだ禁止項目が輸入されないかを検査するだけの目的で設置してもいい。



「でもそんなものを作ったら、ルミエラス側が反発するんでは…。」



すると一人の大臣が、恐る恐る言った。私はその言葉に大きくうなずいて、「その通りです」と言った。



「こちらだけ検査するとなると、ルミエラス側から反発を受ける可能性も高いです。ですのでルミエラスにも同じ機関を作る事を打診しましょう。ルミエラスだけでなく、リオレッドにもです。」



私の言葉を聞いて、その大臣は「なるほど」と言った。聞き分けがよさそうな方で良かったと、少し安心した。




「本当は入手ルートや今回の事件の経緯まで調べたいところではありますが…。そこを詰めようとするとルミエラスとの関係が悪くなる、という可能性もあります。」



一番避けたいのは、ルミエラスと衝突してしまうことだった。

今こうやってようやく国交を正常化したんだから、その関係を崩したくない。今回のことだってルミエラスが国ぐるみでやろうとしたことの可能性だって捨てきれないけど、ヒヨルドさんがそんな違法なことを許すとは信じたくなかった。



「検査機関を設置することで、お互いの国の信頼を高めることが出来ます。将来国同士での紛争を防ぐためにも、絶対に設置すべきだと思います。」



ルミエラスから入ってきたものをテムライムが国として検査をして、異常がないことを確認出来ればルミエラスのことを心から信頼できる。それはルミエラス側だって同じことが言えるし、もちろんリオレッドにも同じことが言える。




「違法なものが入ってきたから設置するのではなく、あくまでも信頼を高めるための設置です。そう説明すればきっと、リオレッドもルミエラスも分かってくれるはずです。」

「そうだな。」



誰よりも先に王様が言った。

大臣たちもみんな王様の言葉にうなずいていて、私は内心ホッと胸をなでおろした。



「さっそくリオレッドに連絡を取ろう。」



じぃじが死んでから、お察しの通りあのクソ王子が王様になった。

でもじぃじは遺言に「政治の実権は弟のマージニア王子に任せる」と書いていたらしく、クソは武力を中心に王としての決定権を持つことになった。



だからと言ってあの二人に安心してすべてを任せられる気はしなかった。

あれから15年間、あのクソに会わないようにじぃじがしていてくれたおかげでまともに話もしなかった私は、今アイツがどうなっているのかはよく分からない。でも子供を蹴りつけるような奴が簡単に変わるとは思えなかった。



私は心の中でパパを思い浮かべて、久しぶりに言った。




――――パッパ。

    よろしく頼むよ、本当に。





「リオレッドとの意思相通ができ次第、ルミエラスへと向かってこの話をしよう。それで反対があるものはいないな。」

「ハッ!」



有無も言わせない姿勢で、王様が言った。

みんなビシっとした姿勢で敬礼をしたから私もそれに合わせて頭を丁寧に下げた。



「リア、ありがとう。君がテムライムに来てくれたこと、本当に宝物だよ。」



王様はにっこり笑って言ってくれた。


リオレッドではあんなに素晴らしい王様に出会って、じぃじが亡くなったと思ったら今度はテムライムに来ることになって…。



前世ではとことん運に恵まれなかった私だけど、アリアとしての王様運まじで最強じゃんと、心の中でガッツポーズをした。

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