第16話 姑運も最強な私

それからすぐに、テムライムの派遣団がリオレッドへと向かうことになった。リオレッドと意思確認ができ次第そのままルミエラスに向かうことになるようで、さすがに気まずい私は今回お留守番することになった。



「リア、行ってくるね。」



警備を担当することになったエバンさんは、今日から無期限で家を留守にする。準備を終えたエバンさんは私の頬を愛おしそうに撫でて、少し寂しそうな顔をした。



「無事に、帰ってきてね。」



いつも平和だから何とも思わないんだけど、いざ他の国に警備をしに行くとなると、なんだかすごく心配になり始めた。

するとエバンさんはにっこり笑って「うん」と言った後、私を優しく抱きしめてくれた。



「あ~。やっぱ連れて行きたい。」



エバンさんが本気のトーンでいうから、私は思わず笑ってしまった。するとエバンさんは私の体を離して、不服そうな顔をした。



「本気なんだけど。」

「ふふ、ごめんなさい。」



また笑った私に、エバンさんはもっと不服そうな顔をした。その顔を見て私がまた笑うと、「怒るよ」と言ってこぶしをこちらに向けてきた。全然怒る気なんてないくせに。




「パパとママへの手紙、よろしくね。」

「うん。任せて。」



エバンさんはパパに会う事になるだろうから、私はパパとママに1通ずつ手紙を書いた。エバンさんは私が渡した手紙を大事そうに持って、そのまま懐へとしまった。



「じゃあ、行ってきます。」



名残惜しそうな顔をして、エバンさんは言った。私もなんだか悲しくなった感情を、隠すことなく表情に出した。



「行って、らっしゃい。」



遠くなっていく背中が見えなくなるまで手を振った。エバンさんも何度もこちらを振り返って、最後まで手を振ってくれた。


これまでは何かある度に、案を出すだけじゃなくて自分の足で交渉に行っていた。

なのに今回は、待っている事しか出来ない。自分で行けないもどかしさと、行かなくていい安心感が心の中で複雑に絡み合って、居ても立っても居られない気持ちになった。



「さてと。」



何かしていないと落ち着かなくて、私はそのまま今日も書斎へと向かった。そしてとりあえず本の続きを開いて、テムライムの歴史をしっかり学ぶことにした。




「リア様。そろそろお食事の時間です。」

「はぁい。」



さっきまで複雑な気分になっていたはずなのに、それもすっかり忘れて本に集中してしまっていた。結構私って薄情な人間だなと思いつつ、ティーナに促されるがまま食事の会場へと向かった。



「リアさん。書斎をすごく気に入ってくれてるそうね。」

「はい。どれだけいても飽きないです。」

「そう。うちの子たちは本当に本を読まなかったから、書斎の本も喜んでるわ。」



ここに来てからずっと4人でご飯をたべていたけど、エバンさんの代わりにラルフさんが国内の仕事を請け負っている関係で、今日は家にいなかった。レイラさんは本当に優しいし、いつも私に気を遣ってくれるから緊張まではしないけど、でもやっぱりどこか心細いのには変わりなかった。



「そう言えば先ほど王妃様にお会いしたの。あなたがさっそく活躍してくれたって、王様がとても喜ばれていたそうよ。」

「そんな、活躍なんて…。無責任に発言させていただいただけなんです。」



今回の私ったら本当に無責任だ。

気が付いていたのに自分はなにもしてこなくて、その上トラブルが起きたっていうのに意見だけ言って…。


自分の甘さが招いたことなんだから自分で尻ぬぐいしたかったけど、今私がルミエラスに行けば話がこじれてしまうから、行かないことが一番うまく行く方法だっていうのも理解している。それでもやっぱり後ろめたい気持ちを、私はどこかで抱え続けていた。



「あなたはもっと自信を持っていいと思うわ。」



くよくよしている私に、レイラさんが言った。驚いて顔をあげると、レイラさんは美しい顔で笑っていた。



「誰でも思いつくことじゃないわ。それに王に呼ばれて堂々と意見を述べられるだけでも立派よ。そんな立派で誇らしい女の子がエバンと結婚してくれて、私も嬉しいわ。」



レイラさんの言葉を聞いて、思わず泣きそうになった。

何とか涙をこらえて「ありがとうございます」というと、レイラさんはまた優しく笑ってくれた。



「今日は羽を伸ばして寝てね。寂しかったら一緒に寝ましょう。」

「ふふ。夜中にお邪魔したらごめんなさい。」



そんな風に冗談を言い合える姑を持って、私はすごく幸せだ。

いつか自分も嫁姑問題にぶつかるんだと思っていたけど、今のところそれもなさそうだ。王様運だけじゃなくて、どうやら姑運も最強らしい。

私はそのままほっこりした気持ち食事を終えて、おやすみの挨拶をして部屋に戻った。



そして部屋に戻ってすぐ、お約束と言わんばかりに久しぶりにベッドにダイブした。




「なんだか久しぶりですね。」



そんな私を見て、ティーナはクスクスと笑っていた。

さっきまで寂しいと思っていたはずの私も、ティーナの言葉を聞いて笑った。エバンさんがいないのはもちろん心細いけど、ベッドはすごく広く感じられた。だからレイラさんの言葉通り、今日は両手両足を広げて寝てやるんだと心に決めた。

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