第14話 起こってしまった最悪のトラブル
「そういえばエバンさん。どうしたのこんな時間に。」
しばらく抱き合った後冷静になった私は、体を離してエバンさんに聞いた。するとエバンさんはにっこりと笑った後、「そうだった」と用事を思い出したように言った。
「リラックスして本を読んでるとこ悪いけど、王様からお呼び出しなんだ。」
「王様が、私を?」
なんだか久しぶりに聞くセリフだなと思った。
でも今回のはじぃじからの呼び出しじゃないから、少し意味合いが違う。
挨拶では社交辞令であんなふうに言ったけど、本当に呼ばれると思っていなかった私が少し身を引きながら聞くと、エバンさんは少し困った顔で「うん」と言った。
「少し緊急の要件らしくて。ごめんね、行ける?」
エバンさんが仕事の途中に呼びに来るくらいだから、本当に緊急なんだろう。それに何も悪くないエバンさんにそんな風に謝られたら、「行きたくないです」なんて言えるはずがない。
私は申し訳なさそうな顔をしているエバンさんに笑いかけて、「準備します」と言ってすばやく立ち上がった。
☆
それからすぐにティーナに支度を整えてもらって、急いで王城へと向かった。
緊急の要件っていうんだから何かあったってのは確かなんだろうけど、しばらくの間朝起きてご飯を食べてお菓子を食べて寝るってだけの生活をしていた私が、力になれる気が全くしなかった。
「大丈夫かな…。」
王城について部屋に入る前に、思わず口から本音が漏れた。
すると隣にいたエバンさんは私の背中をポンポンと優しく叩いて、「大丈夫だよ」と言ってくれた。
エバンさんの"大丈夫"を聞いただけで、不安が少し解消されていく感じがした。
こうやって不安に思った時に"大丈夫"って言ってくれる人が変わることが、結婚するってことなのかなと、エバンさんの家族になったことを改めて実感した。
「失礼いたします!」
私のほっこりした気持ちとは反対に、大きな声でエバンさんは言った。
私はその声を合図に背筋をピンと伸ばして、怠惰な自分の頭がどうにか仕事モードにきりかわるようにした。
「失礼いたします。お待たせして申し訳ございません。」
部屋に入るや否や、私は丁寧にそう言った。
会議室の中には結婚式の日に挨拶をしたまままだ名前も覚えきれていない大臣たちと、王様が座っていた。
「リア。ごめんね、突然。」
すごく混乱した会議室を想像していたのに、部屋の雰囲気はそんなに焦ってなかった。私は拍子抜けした気持ちで王様に「とんでもございません」と言って、エバンさんに促されるがままに空いている席へとついた。
「いきなりでごめん。一つ困ったことが起きたんだ。」
私が席に着いたのを見届けて、王様が言った。
何を言われるんだろうとドキドキしながら待っていると、使用人さんが一つの小瓶を持ってきた。
「これはね。テムライムで使用が禁止されている、薬の一つなんだ。」
王様は困った顔でそう言った。
ガラスみたいなものでできている瓶の中には明らかに体に悪そうな、ピンクの液体が入っていた。
「飲むとお酒を飲んだ時以上に気分が高揚するんだけど、その後にだんだん体が壊れていって最後は死んでしまう薬でね。」
麻薬みたいなものだなと思った。
そして恐れていたことが起きてしまったかと、すでに聞くのが嫌になり始めた。
「それが今日、ルミエラスから来た船で見つかったんだ。船員が二人、金儲けのためにやったことを自白している。」
「そう、ですか…。」
予想した通り、やっぱりそれは"密輸"だった。
本当は対策をしておくべきだった。した方がいいかなと、何度も考えた。
でももし密輸なんて誰も考えなければ、手続きや無駄な手間を増やす必要なんてないと思っていた。
でも…。
「起こって、しまいましたか…。」
それはあまりに、安易な考えだった。
いつの時代にだってどこの世界にだって、悪い人はいる。よくないことを考える頭のある人も、残念だけどいる。
「リア、大丈夫かい?」
見るからに落胆している私に、王が言った。
私は馬鹿な自分を責めることを一旦やめて、「すみません」と言って頭を上げた。
「恐れていたことの一つではありました。ですがこんなことは起こらないと信じて、今まで何の対策もしてきませんでした。情けないです、本当に。」
別に私はこの国出身の人でもないし、すべてが私のせいとは言えない。
でもテムライムでこの最悪の事態が起こった以上、今までだってリオレッドでも何もなかったという保証は、一切できない。
「そんなことない。君だけじゃなく、みんなそうだったんだ。」
王様はそう言って慰めてくれたけど、私はしばらく落ち込んで言葉も出なくなった。
最悪だ、本当に。
自分を叱ってやりたい。
でも今は、今後に向けてちゃんとした対策をするしか出来ない。
私は一旦落ち込んだ気持をちなんとか立て直して、しっかりと王様の方を向いた。
「王様、一つ考えがございます。」
王様は私の目を見て、「聞かせてくれ」と言ってくれた。いつもなら一旦持ち帰って考えるところだけど、今回はどれだけでも早く対策を進めたい。
私は王様の言葉に一つ大きくうなずいて、堂々と言葉を発するために大きく息を吸った。
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