第11話 家の中にこんなとこが…!


「ここ。」



案内されたのは、言われければ絶対に見つけられない位置にひっそりとある階段だった。私が本が好きだって知ってるはずなのに書斎を案内してくれないなんてって最初は思ったけど、こんなところにあるなら忘れてしまってもしょうがないと、エバンさんをひっそり擁護してあげた。



「暗いしちょっとほこりっぽいけど…。」



イリスの言う通り、階段を降りれば降りるほどその先は真っ暗になっていった。こんなところに本当に書斎なんてあるのかと不安に思っていると、サーシャが「ママ、怖い」と一言言った。



「うん。私も怖い。」



サーシャの言葉を聞いて、素直に言ってみた。するとサーシャは私をみてニコッと笑って「ほんと~?」と言った。



「リア大人なのに怖いの?」

「うん。大人だけど暗いところは怖い。」

「え~!サーシャと同じだ~!」



サーシャが明るい顔になってくれたから素直に言ってよかったとは思ったけど、怖いのは冗談とかじゃなく本当のことだった。私はドレスの裾を踏んで転げ落ちてしまわないように、ゆっくりゆっくり暗闇の階段を進んでいった。




「よいっしょと。」



少し階段を降りると、階段が終わったすぐのところに大きな扉があった。イリスがその重そうな大きな扉を両手で開けると、部屋の中から流れてきた空気と一緒に、古本の香りがふわっと香ってきた。



「さあ、どうぞ。」



イリスはそう言って、扉を抑えていてくれた。私は自分の家なはずなのに「失礼します」と言って、本の香りのする部屋に一歩足を踏み入れた。



「う、わぁ…。」



その部屋は思ったよりもずっと大きかった。やっぱり少し薄暗かったけど、地下室だっていうのに天井が高くて、壁全体に本棚が設置されていた。イリスは10年分なんて言ったけど、かたっぱしから読んだとしたら100年はかかってしまいそうだ。そう思うくらいに壁中がたくさんの本で埋め尽くされていて、私は思わずあっけに取られてその景色を眺めた。



「気に入った?」



そんな私の様子をみて、イリスはクスクスと笑って言った。

私は言葉が出ないまま首を大きく何度も縦に振って、その感動を表現した。



「おじい様がね、本が好きな方だったの。でも私たちはみんなそんなに興味がなくて…。だからリアが気に入ってくれるなら、おじい様も喜ぶと思う。」

「そう、なんだ…。」



イリスはすごく穏やかな笑顔でそう言ってくれた。

私はもう一回壁中の本を眺めた後、一番近くにある本に手を取ってみた。



"テムライムのなりたち"



手に取った本は、テムライムの歴史に関する本みたいだった。

王様から本を数冊もらったことがあるから少しは勉強してきたけど、"テムライムのなりたち"はすごく分厚い上に、パッと見ただけでも10冊以上は並んでいた。数冊では省略されていることも多くて疑問に思ったことも多かったから、これがあればもっと詳しく学べそうだと思った。



「ねぇ、リア~!もっと可愛い本がいい!」



私が分厚くて小難しい本ばっかり眺めているもんだから、待ちくたびれたって様子でサーシャが私を催促した。



「ごめんごめん。一緒に選ぼうか!」

「うんっ!」



それから私たちは一緒に絵本を選んで、数冊書斎から持ち出した。書斎は本が読めるくらいの明かりはついていたけど、目にはあまりよくなさそうな暗さだったし、それに今日はとてもいい天気だった。



私たちは数冊の本を持ったまま庭にあるテーブルについて、それからしばらく本を読んだ。


「リア~。これはなに?」

「それはね、ネコトビウオって動物だよ。」



途中でイリスがラルフさんやレイラさんに会いに行ったから、私はサーシャと二人で本を読んだ。こうやってサーシャに本を読んでいると、昔メイサに本を読んでもらったことを思い出す。



確か私が絵本でウマを見てポチを見つけたのも、サーシャくらいの年だっただろうか。



「へ~!可愛いね!会ってみたい。」

「ね~。いつか会えるといいね。」



こうやっていろんなことを学んでいれば、いつかサーシャも私みたいに何かに興味を持ってくれるだろうか。


あの頃私はすでに精神的には4歳ではなかったからハードルはあげられないけど、いつかこの時間だってサーシャのためになると信じて、私はサーシャが飽きるまで、メイサが私にしてくれたように絵本を読み続けた。



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