第9話 おはようございます。朝ですネ


おはようございます。

今日からアリア・ディミトロフでございます。



言い慣れないし、なんなら噛む。

始めまして、アリア・ディミトロフです。

慣れない。あ~慣れない。


いつか慣れるときはくるんだろうか…?

アリア・サンチェスに慣れるにもずいぶん時間がかかったから、おばさんになるまで慣れないかもしれないな…。


でも社交の場に出た時のために練習はしておかなきゃ。真面目か。




え?昨日はどうなったって?

それはもうご想像にお任せします。私もいい大人なんで。


まあ、一つだけ言わせてもらうとしたら…。

騎士の方ってやっぱり、日々厳しい訓練を積んでいるんでしょうねってことだけです。うん。それがよく分かりました。いつもお疲れ様です。



そして来たる朝。

目を覚ました私ですが、多分これ、朝じゃないです。昼です、昼。

なんとなくね。なんとなく外はにぎやかだし、朝日っていうよりもう昼の光が差し込んでいる気が…



「おはよう、リア。」



意識がはっきりしないまま考え事をしている私の耳に、すぐ横から愛おしい声が聞こえてきた。



声に反応して横を見ると、バッキバキの上半身をシーツから出したまま、肩肘をついて私の頭を愛おしそうに撫でているエバンさんの姿が目に映った。いくらなんでもイケメン過ぎんだろ。



冷静になって自分の体を見てみると、生まれたままの姿で布団にくるまっていた。隠れているってのはわかるんだけど、私はそれでもなんだか恥ずかしくなって、布団で少し顔を隠しながら「おはよ」と小さく言った。



「大丈夫?」



何が?って思ったけど、なんだかそこら中が痛い気がした。何で痛いのか思い出そうとすると、恥ずかしくて消えたくなり始めた。



「大丈夫じゃ、ない…。」

「え?!ほんとに?!ごめん、僕…っ。」



大丈夫じゃないという私に、エバンさんは焦って言った。豪快な慌てっぷりが可愛くて、「ふふふ」と笑ってしまった。



「もう…。恥ずかしい…。」

「リア。」



恥ずかしがる私を、エバンさんは抱き寄せた。耳を彼の胸につけてみると、飛び出てしまいそうなくらい、心臓がドキドキ鳴っているのがわかった。



「ごめん。本当に。これからは、気を付ける…。なるべく。」

「ふふふ。」




"なるべく"なんかい!と小さな私はツッコんでいたけど、もうどちらでもよかった。そこら中痛いのに気持ちはほっこり満たされていて、本当に幸せだって心の底から思った。



「まだ寝てていいよ。」

「ううん。お腹すいちゃったから起きる。」

「そっか。じゃあティーナを呼んでくるよ。」



エバンさんはそう言って、腰にシーツだけ巻いて立ち上がった。後姿の筋肉が美しすぎて、彫刻でも見てるみたいな気持ちになった。ここは美術館かよ。



私がそんなあほなことを考えている間にエバンさんはシャワーを浴びてきて、サッと着替えを終えた。



「大丈夫?ご飯ここに持ってこようか?」

「ううん。シャワー浴びてくるから、ティーナに入ってもらってていいよ。」

「わかった。」



まだ少しボーっとしていたけど、エバンさんの言葉でやっとスイッチが入って、私はのそのそと動き始めた。ティーナが入ってくる前に少しは片付けていないと恥ずかしいと思って、脱ぎ捨ててある服をある程度まとめてシャワー室に入った。



テムライムのシャワーは、やっぱり素晴らしい。

ちゃんとお湯が出るし、出したいときに出して止めたいときに止められる。



「と言っても、前世と比べたらまだまだだけどな…。」



前世では何とも思わず使っていたシャワーだけど、あんなに便利なものが普通に手に入ったって、本当にありがたいことだと思う。


近くにあると気が付かないもんだよな、そう言うの。



ってかもうエバンさんよ…。

2周通してもあんなの…経験したことないや。

あんた顔に似合わず獣かよ。かわいいけど。



でも前の人生だったらエバンさんのこと、私選んでたのかな?

多分1周目の時だってぐずぐず考えてしまう性格ではあったけど、

今もっとひどくなってるよな。


現に今だって急に考察始めたし…。


グダグダ考えてるからこそ、

まっすぐで純粋なエバンさんに惹かれたのかも。

まっすぐな純粋さが夜にまで反映されるとは思ってなかったけど。



「1周目ならアルのこと好きになってたりして…。」



って何考えてんだろ。



「リア様…?大丈夫ですか?」

「うん!今出るところ!」



あまりにシャワーが長かったからか、外から心配そうな声でティーナに呼ばれた。私は急いで体を拭いて下着を着て、「ごめんごめん」と言いながらティーナのいる部屋の方に向かった。

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