第8話 今日からずっと
「エバン様~!おめでとうございますっ!」
「あれがエルフのお嬢様ね…っ!天使のようだわ。」
「お似合いだわ…。ドレスもとてもキレイ。」
「アリア様~!ようこそテムライムへ~!」
馬車に乗って街を進むと、たくさんの歓声が聞こえた。
みんな旗を振って私たちを祝福してくれて、街中に華やかな飾りつけがされていた。
「キレイ…。」
「僕たちのために、みんながしてくれたんだ。」
元々キレイで明るい街が、もっと明るく見えた。今まで不安だってあったはずなのに、これからこんなに明るい国で暮らせるんだって思ったら、ワクワクが湧いてきて止まらなくなった。
「あ、ゾルドおじ様だ!」
手を振りながら進んでいると、その途中でゾルドおじさんが立っているのが見えた。ばっちり目を合わせておじさんに手をふると、おじさんは大きく首を縦に振ってこたえてくれた。
「え…?泣いてる…?」
そしておじさんの目から、涙があふれているのが見えた。
おじさんは相変わらず怖い顔をしていたけど、でも止められないくらいたくさん涙を流していた。
「おじ様…っ。」
昔から私のことを娘みたいに可愛がってくれたおじさん。いつも私たちのことを守ってくれるおじさん。
「ありがとうっ!」
聞こえないかもしれないけど、口パクでそう言った。するとおじさんはまた大きく首を縦に振って、珍しくニコッと笑って見せてくれた。
「ジルにぃ!ウィルさん!アル!」
そのすぐ近くで、カルカロフ三兄弟も手を振っていてくれた。
久しぶりに会えてうれしくなった私はみんなに方を向いて、いつも通りブンブンと手を振った。
「おめでとう。」
ジルにぃの口が、そう言ったのが分かった。私は何度もうんうんってうなずいて「ありがとう!」と伝えた。
それからも盛大にパレードは行われた。私たちは半日かけて街中を回って、そしてお城に戻ると今度は晩さん会が始まった。その日は街の中でも宴会が行われていたらしくて、どこからともなく賑やかな音がずっと聞こえていた。
晩さん会では、数えきれないくらいの人とあいさつを交わした。
主役だからしょうがないって分かってるんだけど、どう考えても全員の名前を覚えられそうになかった。
「リア、大丈夫?」
「うん。」
いっぱいいっぱいになっている私をエバンさんは何度も気遣ってくれたけど、「大丈夫じゃないから帰りたい」なんて言える選択肢は私にはなかった。私はずっと気を張って笑顔を貼り付け続けて、深夜まで続いたパーティーの間ずっと祝福を受け続けた。
☆
「し、死んじゃう…。」
とっくに夜が更けた深夜。
ようやく家に帰れた私は早々にドレスを脱がしてもらった。そしてパジャマに着替た後、ベッドに文字通り倒れこんだ。
「リア。」
するとその時、着替えを終えたエバンさんも部屋に入ってきた。
入ってきたエバンさんはとても心配そうな顔をしていたから、これ以上心配をかけないようにするために、私は上半身を起こしてまた笑顔を貼り付けた。
「疲れたよね、大丈夫?」
「疲れた…、本当に。」
本当に疲れた。一日中笑顔でいるって、結構しんどいものだ。
でも…。
「すごく楽しかった。それに嬉しかった。」
大勢の人におめでとうって祝福してもらえて、数えきれないくらい何回もキレイだって言ってもらえて本当にうれしかった。
素直に今の気持ちを伝えると、エバンさんはにっこり笑って「そっか」と言った。エバンさんだって全く同じ一日を送ったはずなのに、まだまだ余裕そうな顔をしていたから、さすが体力がある人は違うなって思った。
「リア。」
するとエバンさんは、私の頬に優しく手を置いた。
「リア。」
そしてもう一度優しく名前を呼んで、唇にそっとキスをした。
「今日から本当に、ずっと一緒だ。」
エバンさんはそう言ってまた唇を合わせて、今度は深い深いキスをした。私はただただ、その深いキスについていくのに必死だった。
「ごめん。ダメだ…っ。」
キスをしている間に、エバンさんの手は私の肩に降りてきていた。
でも唇を離したエバンさんはその手をグッと握って、私から目をそらした。
「ダメだ、本当に。我慢できなくなる。」
自分に言い聞かせるみたいに、エバンさんは言った。そして私に背を向けて、ベッドから立ち上がった。
「ごめん、ちょっと頭冷やして…」
「エバン、さん?」
外に出て行こうとするエバンさんを、私は呼び止めた。
するとエバンさんは暗闇でもわかるくらい赤い顔をして、こちらを振り返った。
どうしても傍にいてほしかった。ひと時も離れずに、ずっと寄り添っていてほしかった。
「行かない、で…。」
だから素直に口に出して言った。するとエバンさんはなぜか小さく「ごめん」と言って、こちらに近づいてきた。
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