第6話 いよいよ迎えた晴れの日
「どうぞ。」
私が支度を終えた頃、ちょうど部屋をノックする音が聞こえた。給仕長のマリエッタさんが返事をすると、遠慮がちに扉が開いた。
「エバン様。どうぞお入りになってください。」
どうやら部屋に来たのはエバンさんみたいだった。
最後の仕上げに勇気のバレッタを付けてもらっていた私が鏡越しに「お待たせ」というと、エバンさんはすぐに私から目をそらした。
「エバン、さん?」
バレッタを付け終わった私は、席から立ち上がって彼の前に立った。するとエバンさんは顔を真っ赤にしたまま、私と目を合わせてくれなかった。
「リア、こっちを見ないでくれ。」
どうしたんだろうと思って覗き込む私に、エバンさんは言った。
「かわいい」って言ってもらいたくて何とか目を合わせようとエバンさんの目線の先に顔をひょっこりだすと、彼は一瞬私を見た後、またすぐに目をそらした。
「かわい…、すぎる…っ。」
耳まで真っ赤にして、エバンさんは言った。
私は部屋にいた給仕さんたちと目を合わせて、くすくすと笑った。
「ねぇ、ちゃんと見て。」
私はエバンさんの顔を両手で持って、無理矢理自分の方に向けた。エバンさんは顔を真っ赤にしたまま、やっと私の目を見てくれた。
「どう?私、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ない…。」
エバンさんはそう言って、私を抱きしめた。
みんな見ているのにと私は思ったけど、エバンさんはそんなこと気にせず私を抱きしめる手を強めた。
「誰にも見せたくない…っ!」
「ふふふ。」
エバンさんがあまりにも必死で言うから、思わず笑ってしまった。相変わらずティーナやマリエッタさんたちも楽しそうに笑っていて、部屋の中はとても暖かい空気に包まれた。
「リア。」
「ん?」
「やっぱり今日はやめよう。君をどこかに閉じ込めるよ。」
「いやだ。じぃじのドレス、みんなに見てもらうんだから。」
私は抱きしめるエバンさんの手をはがして、勢いよく部屋から出た。部屋の方からティーナが「リア様!走らないで!」と言っている声が聞こえたけど、私はそれも無視して走り続けた。
「リア、待って…っ!」
「ふふっ。いやだっ!」
気分が上がった私は、追いかけてくるエバンさんから逃げるようにして走った。そしてついに、そのまま玄関から外に飛び出した。
「リア…っ!」
勢いよく玄関を飛び出した私を、後ろから誰かが呼んだ。
そう言えばここはリオレッドじゃないんだから、こんなお転婆なことするんじゃなかった。ようやく冷静な気持ちを取り戻して振り返ると、そこに立っていたのはパパとママだった。
「パパ!ママ!」
まだ1週間しか空いていないのに、もう半年くらい会っていないような気持ちになった。また冷静な気持ちを忘れてしまった私は、走ってパパに勢いよく飛びついた。
「会いたかったっ!」
パパは私を子供みたいに抱き上げて、くるくると回してくれた。ママは「崩れちゃうでしょ!」って怒っていたけど、顔はあんまり怒っていなかった。
「キレイだよ、リア。」
パパは私をギュっと抱き締めて、改めて言ってくれた。私もパパを抱きしめる力を強めて、「ありがとう」と言った。
「じぃじがね、用意したくれたの。」
「王様が…。」
ママは目にいっぱい涙をためて、私の頬に手を添えた。私はママの手に自分の手を重ねて、「ママ」と言った。
「リア。おめでとう。すごく似合ってる。」
「ありがとう。」
ママもそう言った後、私を抱きしめてくれた。それだけでも涙がこぼれそうになったけど、泣いたらせっかく支度してもらったのが台無しだと思って、必死で涙をこらえた。
「こんにちは。」
「エバン君、今日はありがとう。」
「こちらこそ、遠いところご足労いただきましてありがとうございます。」
エバンさんとパパとママはお互いに挨拶を交わして、最近の話とかをしていた。その間にティーナは「もう絶対に走らないでください」と怒りながら、乱れたところを直してくれた。
「それじゃあテムライム王とご両親にご挨拶をしてくるよ。」
「はぁい。またあとでね。」
後で会えるのかどうか不明だったけど、私は笑顔でパパとママを見送った。今まで全然実感がわかなくてふわふわとしていたけど、少し緊張した様子のパパとママを見ていたら、自分もなんだか緊張してきた。
「大丈夫かな…。」
「う~ん。じゃあやっぱり部屋にこもっておく?」
「いやだ。」
緊張はしているけど、冗談を言えるんだったら大丈夫だと安心した。
2回目の人生だけど、2回を通しても初の晴れの日だ。
私は背筋を伸ばしてシャンと立って、エバンさんにふさわしい女だって認めてもらうんだと、心の中で意気込んだ。
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