第88話 気持ちのいいリオレッドの朝
「ティーナッ!」
姿が見えた瞬間、私は立ち上がってティーナに抱き着いた。安心しきった私の目からは、やっとそこで涙があふれ始めた。
「リア様…っ、ご無事で…っ。」
「それは、こっちのセリフだよ…っ。」
私たちは抱き合って涙を流し続けた。
しばらくはその体制のまま泣き続けていたんだけど、ティーナに会えて心からホッと出来たからか、だんだんと全身の力が抜けてついにはその場に座り込んでしまった。
「リアっ!」
「へへ…っ。」
座り込んだ私を心配して、みんなが駆け寄ってきてくれた。こんな日がまた来るなんて思ってもみなかった私の涙腺は、もう元に戻らないくらい壊れてしまっていた。
「ごめんな、リア。」
そんな私を、パパは力いっぱい抱きしめた。もう力が入らなくなった私は全体重をパパに預けて「私もごめんね」と言った。
「リアも疲れていると思いますから、本日は失礼いたします。」
「ああ。ありがとう、ウィル君。」
ウィルさんは私を見て少し悲しい顔で笑った後、家を出て行った。なんとかウィルさんの見送りまでは出来たけど、緊張とかいろんなものから解放されたせいか、もう愛想笑いを振りまく元気すら残っていなかった。
「リア。少し寝ようか。」
思えばじぃじが死んでから、ロクに寝れていない。
そもそもその前から寝れていないし、食べられてもない。
「パパ、ありがとう。」
パパはそんな私を支えながら部屋へと連れて行った。そして優しくベッドに寝かせて、愛おしそうに頭を撫でてくれた。
「少し熱があるな。何も気にせず、ゆっくり寝なさい。」
「うん。パパ、大好き。」
こんなに心底安心して寝れるのは、いつぶりだろう。そう言えばベッドって、めちゃくちゃ最高の場所だったこと、久しぶりに思い出した。
そんなことを考えながらパパとママにキスをすると、その後すぐに意識がなくなった。
☆
どのくらい寝たんだろう。
空が暗いから少なくとも昼ではないってことはわかるんだけど、数時間寝たってレベルではないくらい寝た感がすごかった。
「頭、いた…。」
寝すぎたせいか、頭痛がひどかった。
たくさん寝たはずなのに、熱が上がってしまったんだろうか…。
何がなんだか全く訳がわからなかった。でも喉がひどく乾いていたことははっきりとわかったから、頭を整理するためにもとりあえずキッチンの方に降りてみることにした。
「みんな寝てる。」
今が何日でそして何時なのかはいまだによく分からない。でも静かな様子から今が深夜だってことはなんとなく分かった。頭痛がしているんだから水を飲んだらすぐにベッドに戻ったほうがいいんだろうけど、何だか変に目が冴えていた。
何を思ったのか、そのまま私の足は自然と玄関の方向へと歩き出していた。そしてまるで何かに引き寄せられるようにして、玄関のドアを開けた。
外に出てみると、辺りは少し明るくなり始めていた。
「朝か。」
空気はどこまでも澄んでいた。深夜だと思っていたけど、清々しい空気とほんのりと見えてきた太陽の光が、私に"リオレッドの朝"を教えてくれているみたいに感じた。
「気持ちいい…。」
澄んだ空気が、とても気持ちいい。
それはきっと空気が特別澄んでいるせいじゃなくて、自分の気持ちのせいだって分かっていたけど、それでも私は大きく伸びをして体いっぱいに空気を取り込んだ。
「海のにおいがする…!」
朝の風に運ばれてきた海のにおいが、すごく新鮮で心地よかった。なんだか今すぐにでも海が見たい気持ちになって、そのまま私は歩いて海の方へと向かった。
港には大きなテムライムの船がとまっていた。きっとじぃじのお葬式に来るために、誰かが乗ってきたんだろう。
朝日を背に輝く船は、いつもより大きくて、そしてかっこよく見えた。
「乗りたい…。」
船を見ていたら、高いところに登りたい気持ちになった。高いところに登って、広く海を見てみたいと思った。
よく辺りを見渡してみると、船にはなぜかしっかりと梯子が降ろされていた。他の国の船に勝手に乗るなんて後で怒られるかもしれないと思いながらも、私はそれに手をかけて船の上に登りはじめた。
「気持ちいい…っ!」
船の上に吹き抜ける風は、歩いていた時に感じていた風よりずっと強かった。でもその強さがすごく心地よくて、私は両手を広げて風を感じた。
海の向こうには、もうすぐ登ってくるであろう朝日が見え始めていた。私はもっと近くで朝日が見たくなって、他の国の船だってことも忘れて甲板の方へと進んでみることにした。
「…え?」
すると甲板のあたりに、誰かがたっているシルエットが見えた。誰もいないと思っていたのに、誰かがそこに立っていた。
バレたら本当に怒られると思った私は、静かに引き返して帰ろうかと思った。でもわたし声に反応して、その人はこちらを振り返ってしまった。
「ごめんなさい…私っ。」
「…リア?」
勝手に乗ってごめんなさいと、謝ろうとした。すると逆光でシルエットしか見えないその人は、私の名前を呼んだ。
シルエットしか見えなくても誰か分かってしまったのは、その声が愛おしい声だったからだろうか。驚きすぎて反応も出来ない私は、足に根っこが生えたみたいに、その場に立ち尽くした。
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