第87話 まじで絶対許さないっ!


じぃじの死のニュースは瞬く間に国中を駆け巡った。リオレッドだけじゃなくテムライムやルミエラスにもすぐにニュースは知れ渡って、後日盛大なお葬式が行われた。



参列した人の多さで、どれだけじぃじが慕われているのか目に見えて分かった。これもすべてじぃじが繋いで来たものなのだなと思ったら、それだけで胸が熱くなった。



そして当然ながら、ルミエラスでは私の失踪が大ニュースになったいたらしい。その上私がリオレッドにいることは、思っていたよりすぐにばれてしまったようだった。



どれだけでも早くルミエラスに帰ることが、今私に出来る最善の策かなとも思った。でもじぃじのお葬式に来る人が多すぎて国中が混乱していたせいで、私はルミエラスに戻れなかった。最後にじぃじがママやパパとお別れする時間をくれたんだなと解釈することにした私は、今の状況が落ち着くまで家で過ごすことにした。



「リア、大丈夫だから。」



帰ってきた私を抱きしめて、パパは言った。でもそれが根拠のない"大丈夫"だってことはよく分かっていて、最終的にみんなのために死ぬ覚悟を、私は決めていた。



あの日もみんなを悲しませないって決めたはずなのに、もうその決意は揺らいでいた。やっぱり私はどこまでもこの国が好きみたいで、じぃじが守ったこの国を私も守りたいって、本気でそう思っていた。




1週間ほどたって、そろそろルミエラスに行かなくてはなと思っていたある日のお昼。家のドアをノックする音が聞こえた。



ティーナがいないから代わりにママがドアを開けに行ったと思ったら、その後すぐ「リア~!」と名前を呼ばれた。



「は~い!」



呼ばれてすぐに、階段を下りて玄関の方に向かった。するとドアの向こうに立っていたのは、にこやかな表情のウィルさんだった。



「どうぞ。」



ウィルさんが来たという事は、私が帰る時が来たっていう意味にも等しい。何も言われずともそれが分かっていた私は、どこか身構えながら挨拶をして、ウィルさんを応接室へと通した。するとママも何か伝えられるって雰囲気を察したのか、緊張した様子でお茶を持ってきた。



それなのにウィルさんはあっさり「ありがとうございます」なんて言って、穏やかな顔でお茶をすすり始めた。



「あの…。」



早く本題が聞きたくて、行儀が悪いと分かっていながらウィルさんを催促した。すると彼はお茶をゆっくりと置いた後、「そうだね」と言った。



「察しの通り、ルミエラス王からの通達を預かってきたよ。」



私もパパもママも、少し前のめりになって話を聞いた。でもやっぱりウィルさんは、とても落ち着いた様子で座っていた。




あ~もしかしてだけど。

死刑って言われても動揺させないように、

こういう態度を取っているのか。


なるほどなるほど。

これもウィルさんの配慮ってやつか。



「王からの伝言を、読み上げます。」



もしくは「わしの部屋に監禁してやる!」くらい、

言われてもおかしくないよあ。


そうなったら毎晩かな。

想像しただけでイヤすぎる。

イヤすぎるぅううううう~~~!!!



「逃げるようないう事を聞かない姫は…」



殺す?犯す?それとも監禁する?

どうせなら一思いに死んだ方がましかもぉおおおおお!



「わしの王妃としてふさわしくない。」



ふさわしくないからどうすんの?

殺すんでしょ?!?

殺してよ?!?!?ねぇ?!?!?



「よってお前を…」



はやくっ!!

はやくっ!!

はやくっ!!



「国へ返却する。」



……へ?



「…え??????」

「君は自由だよ。リア。」



ウィルさんは来た時の穏やかな笑顔のまま、そう言った。

まだ言葉の意味がうまく理解できていない私に、パパとママが泣きながら抱き着いてきた。



「聞いてみたところによると、第一王妃様がだいぶ拗ねたらしくて…。ルミエラスにリアが帰ったら、自分は死ぬなんて言い出したらしい。」



あのブス、まじでファインプレーじゃん?



と、私の中の冷静な私が言った。その間もパパとママは私に抱き着いたまま泣いていて、私はというと泣く暇もなく驚いていた。




「あの…取引の方は…。」



そんなことより気になるのはこれからのルミエラスとの関係だった。

泣いている両親に対して、いたって冷静なテンションで聞いてみると、ウィルさんはその質問にもにっこりと笑った。



「問題ないよ。全部ヒヨルドさんに任せるって。」

「よかった…っ!」



いや。

だとしたら、私の決意も覚悟も返してくれよ。

なんなら私を触った分、金払えよまじで。

くっそじじぃ、いつか絶対…。




「それに今日はね、スペシャルゲストがいるよ。」

「え…?」

「おいで。」



ウィルさんがそう言うと、ドアを遠慮がちにノックする音が聞こえた。ゆっくり空いたドアからは、顔をひょこりとのぞかせた、ティーナの姿が見えた。

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