第85話 受け継がれていく想い


「リア!」



そのままほぼ寝ずに走り続けて、アルの宣言通り2日でレルディアにたどり着いた。するとレルディアの入り口ではジルにぃが待っていて、まるで物を受け取るみたいにして、私をアルの手から受け取った。



「アル、ありがとう!」

「いいから早く行け!」




2日間走り続けてくれたウマは、もうヘロヘロだった。だから今度はジルにぃが連れてきたウマにのって、王城の方に向かった。



レルディアを離れて一か月も経っていないはずなのに、なんだかすごく懐かしい感じがした。その懐かしさが何となく切なくて心細くて、今度はジルにぃにしがみついた。



「リア。」



するとジルにぃはウマを走らせながら、いつも通り優しい声で私を呼んだ。それに反応して顔をあげると、彼はとても悲しい顔をしていた。



「俺の仕事は、国民を守ることだ。」



ジルにぃは悲しい顔をしたまま言った。涙は流れていないはずなのに、その顔は泣いているように見えた。



「国民って言葉の中には、リアだって含まれてるんだよ。だれ一人だってもらしたらダメなんだ。」



ウィルさんと同じようなことを、ジルにぃも言った。きっとこのセリフはじぃじから受け継がれているもので、カルカロフ家の三兄弟はもちろん、私にだってしっかりと刻み込まれている。



「大事な妹を守れないで、騎士王になんかなれるはずがない。」



ジルにぃはいつだって強くて優しくてかっこいい、私の初恋の人だ。今までどの瞬間だってたくましかった彼が見たことのないくらい悲しい顔をするから、私まで悲しくなってきた。


そうしている間に、ウマは王城の前までたどり着いた。ウマと私たちの姿をとらえた門番のおじさんは、何も言わず自然とドアを開けてくれた。



「リア。」



ウマで行けるギリギリのところで、ジルにぃは私を降ろした。そして私の両肩を持って、今度はいつもの優しい顔でにっこりと笑った。



「これから何があったって、俺たちがリアを守るから。」



きっと私はまだ余計なことを心配して、不安そうな顔をしていたんだと思う。

ジルにぃはそんな私を安心させるようにそう言って、頭に大きな手をポンと置いてくれた。



「だからリアは何も心配しないで、行っておいで。」



そしてジルにぃはその言葉と同時に、私の背中を思いっきり押した。私は押し出されるがままに走りだして、いつも通っていた道を全速力で駆け抜けた。少し振り返ってジルにぃに「ありがとう!」と叫ぶと、ジルにぃは「いいから早く!」と言ってにっこり笑った。



それからはあまり速く動かない足を無我夢中で必死で動かして、じぃじの部屋の方へと一直線に向かった。



「リア様だ…っ!」

「どうしてここに…?!」

「そんなのはいい!お通ししろ!」



ここにいるはずがない私を見て、みんなすごく驚いていた。でも私が必死の形相で走っているのを察して、みんなが私をじぃじの部屋まで早くたどり着けるように導いてくれた。



「こちらです!」



私は私を導いてくれる人みんなに、とにかく「ありがとうございます!」と言い続けた。そしてついに、じぃじの寝室の前にたどり着いた。



「リア…様?!」



部屋の前に立っていたおじさんは、今日あった人の中で一番驚いた反応をした。

息を整えるためにも「ごきげんよう」と言って深呼吸をすると、おじさんも同じように息を整えた後「アリア・サンチェス様が参られました!」と、大声で言った。



その声と同時に、ゆっくりと寝室のドアは開き始めた。



間に合った、じぃじに会える。



――――でも、会いたくない…。



ここに来るまではたどり着くだけのことに必死になっていたけど、たどり着いてみてようやく気が付いた。




きっとこれが、本当に最後になるんだって。




聞いただけでは信じ切れなくて、正直あまりピンと来ない。でもじぃじの寝室の周りにあつまった人たちや、部屋の中に集まっているクソ王子や王妃様の顔を見たら、それが本当だって嫌でも分かってしまった。



本当は入りたくない。受け入れたくない。現実だって、思いたくもない。



でもここまでの道をみんなが繋いでくれたのに、私が逃げるわけにはいかない。最後の覚悟を決めた私は、ゆっくりとじぃじの部屋へと足を踏み入れた。

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