第64話 再会のシーン、もしかして稽古済みですか?
「ここを出れば、宿舎だから。」
男の子改め、ザックは、私の手を引いたまま案内をしてくれた。一人でいたら絶対にたどり着けなかった気がする。私は目線を二人に合わせるためにも、その場でしゃがんだ。
「本当にありがとう。」
すると二人は、にっこりと純粋な笑顔を見せてくれた。
私は
「これ、食べて。」
ティーナには明日また買いに行って渡せばいい。自分も食べたいし。
半分欲にまみれたことを思いながら袋を渡そうとしたのに、二人はなかなか受け取ってくれなかった。もしかして遠慮してるのかなと思って、私は袋を改めて前へと差し出した。
「遠慮しなくていいんだよ?」
「足りないの…。」
するとティエルは、遠慮がちに言った。二人分なら十分だけどなと思って首を傾げると、ザックが「こら」とティエルを叱った。
「ううん。大丈夫だから、お話して。」
きっとティエルは何かを言おうとしている。そう思って言ってみると案の定「あのね」と、話し始めた。
「これだけじゃ、足りないの。おじさんの分とか、友達の分とか…。」
そうか。ティエルは自分だけ食べちゃ、悪いと思っているのか。
自分も辛い状況で、なんて優しい子なんだと思った。私は思わず二人ギュっと抱き締めてしまった。二人は思っている以上にガリガリで、すぐに骨を感じるくらいだった。私はひとまず二人を体から離して、「わかった」と言った。
「とりあえずね、これは二人で食べて。それでね、明日の朝、またここに来てくれる?」
「でも…。」
「大丈夫。もしかしたら二人じゃ持ちきれないかもしれないから、あと何人か連れてきてね。街の人たちにバレちゃいけないよ。」
そう言うと二人は静かにうなずいて、手を振りながら去っていった。私は二人の後姿を見送って、恐る恐る、宿舎のある大通りに出てみた。
「リアッッ!!!」
宿舎の前にはウィルさんが私の帰りを待っていてくれた。
ウィルさんが見たこともない剣幕で私に寄ってくるもんだから、驚いてすこし身を引いてしまった。
「無事でよかったです。」
「こっちのセリフだよ!!」
そう言ってウィルさんは私の両肩を持った後、けががないかって全身を観察し始めた。
「大丈夫。裏道を通ってきたのでケガしなかったですよ。私よりウィルさんの方が…。」
ウィルさんはきっちりした格好が崩れていて、ところどころ汚れがあった。あの人ごみの中もみくちゃになったほうがケガをしていないかと逆に確認しようとすると、ウィルさんは私を突然ギュっと抱き締めた。
「えっと…。」
「ごめんっ!全部僕のせいだ…っ!大事なリアをこんな目に…っ!」
ウィルさんは今にも泣きそうな声で言った。
私は抱き着かれていることに動揺しながらも「本当に大丈夫だから」と、ウィルさんに言った。
「リアっ!!!!!」
その時道の左の方から、私を呼ぶ声がした。そちらを見てみると、ウィルさんと同じくボロボロの格好をしたアルが走って来るのが見えた。
「リアっっ!!!!!!!」
え、デジャブ?
その直後、今度は右側から呼ばれたからそちらを見ると、そちらには生き写しみたいにボロボロになった格好をしているエバンさんがいた。
「「ケガない?!どこにいた?!大丈夫?!」」
二人は同時にウィルさんから私を引きはがして、すごい勢いで聞いた。
その声で鼓膜がけがをしそうだよと思いながら、「だ、だいじょうぶ」と何とか答えた。
「手を離して本当にごめん。僕のせいだ。」
「お前の警護担当なのに見失うなんて…。俺のせいだ。」
そして二人はまるで稽古でもしてきたかのように、また同時に言った。
申し訳ないけどその必死さが少し面白くなってきて、私は吹きだすみたいにして笑ってしまった。
「何笑ってんだよ。」
「いや、二人とも必死だなって思って。」
「笑い事じゃないよ、リア!君に何かあったら…っ!」
二人の様子をみて、さっきまで泣きそうなくらい申し訳なさそうな顔をしていたウィルさんまで笑い出した。私はこみあげてくる笑いを抑えながら、「本当に大丈夫」と二人に言った。
「助けてもらったしね。」
「誰に?」
「秘密~。」
二人はそれから、誰に助けてもらったのかずっとしつこく聞いてきた。でも私は答えないまま「シャワーを浴びてくる」と言って、部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます