第62話 人ごみの襲撃
「ごちそうさまでした。」
「ありがとうございました。またお越しくださいね。」
「はいっ!ぜひっ!お土産までありがとうございました。」
そこからは純粋に、みんなで
―――ティーナにも、食べさせてあげなくちゃ。
こんなにおいしいものに出会うものが久しぶりだった私は、どこか浮かれ気分で店の扉から外に出た。すると前の通りにはなぜかたくさんの人が集まっていて、思わず「え?」という声を出してしまった。
「出てきたわよ。リオレッドとテムライムの方ですって。」
「ウィル様の弟さんはどちらかしら。」
「おい、エルフのお嬢さんが近くで見られるって!」
ギャラリーの声に耳を傾けていると、そんな会話が耳に入ってきた。今までは物珍しさに近づけなかったけど、私たちが普通に出歩いてしまったせいで、見物客が集まってきてしまったらしい。
呆然としている間に人ごみがどんどん大きくなり始めて、馬車が呼べそうになかった。すると「やばいな」と、ウィルさんが一言言った。
「ごめん、リア。歩いて帰ろうか。」
「全然大丈夫です。」
今日はただ観光しただけだから、そこまで疲れを感じていなかった。それに昨日よく寝たおかげで疲れもだいぶましになっていたし、なんなら食べすぎたから少し歩きたいくらいの気持ちになっていた。
「行こっか。」
そう言ってウィルさんは、人ごみの方を進み始めた。
私もそれに続いて何とか進もうとすると、そんな私の足をエバンさんが止めた。
「ついてきて。」
そう言ってエバンさんは私の手を取って、自分が先に進み始めた。エバンさんが人をかき分けてくれるおかげで何とか前に進むことが出来たけど、私は前も見ずにただ連れて行かれるがままの状態になった。
「リア、大丈夫か?」
「うん…っ。」
私の後ろは、アルがしっかり守ってくれていた。
そのおかげで私は自分では何もしなくても、人ごみの中を進むことが出来た。
「エルフのお嬢さんだ。キレイね~!」
「ほんっとに!肌がすけるように白いわ。」
「それにあの二人のナイト。どっちもイケメンねぇ!」
「ほんとほんと。美しいわ。」
ギャラリーは依然、私たちの話題で盛り上がっていた。そして私たちが前に進むにつれてその数はどんどん増えているような気がして、だんだん前に進むのも苦しくなり始めた。
「ちょっと、見えないわ。前に行かせて!」
「そこからでも見えるだろ!」
すると左側でそんな会話が聞こえ始めた。思わずそちらの方を向くと、前に出ようとした女の人が人ごみに押されてこちらに倒れてきそうになるのが見えた。
「うわああ!」
するとそれに合わせて、ダムが決壊したように人混みが右の方に流れ始めた。私は必死にエバンさんの手をつかんで、流されないように耐えるしかなかった。
「リア…っ!」
すると最初に、アルがそれに流されてどこかへ行ってしまうのが見えた。私はアルの方に必死で手を伸ばしたけど、アルの手はとうとうつかめないまま、姿が消えて行ってしまった。
「リアっ!こっち…っ。」
そしてついに、エバンさんの手も私の手から離れてしまった。必死でつかみなおそうとして、私もエバンさんも必死で手を伸ばした。
「エバンさん…っ!」
私の叫びもむなしく、やっぱりその手もつかめなかった。そしてエバンさんはどんどん小さくなっていって、私も人ごみと一緒に右の方に流れて行ってしまった。
「助けて…っ。」
ギャラリーはもはや私のことなんか見ていなくて、自分が倒れないようにするのに必死みたいだった。私も何とかこの渦から出ないとともがきながら雪崩の出口を探すために、腰を低くして辺りを見渡した。
――――あそこだ…っ!
すると人ごみの向こう側に、1本道があるのが見えた。
そこには暗かったけど少なくとも人がいそうには見えなくて、私は人ごみをかくようにして何とか、その道の方へと進んでいった。
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