第61話 また美味しすぎるものに出会ってしまったっ!
空気を読んだウィルさんは、馬車で私の隣に座ってくれた。隣に座っているアルとエバンさんはどことなくギスギスした雰囲気だったけど、二人とも大人だってこともあって、言葉には何も出さなかった。
「さあ、もうつくよ。」
疲れているだろうからとウィルさんは馬車に乗せてくれたけど、"シオカラ"のお店にはすぐ着いた。グレーと白でまとめられたシックな雰囲気のお店は、外からみてもおしゃれでかわいかった。
「お久しぶりです。」
ウィルさんはその扉を、慣れた様子で開いた。
扉の中はまるでカレーを食べに行った時みたいに女の人ばかりで、ウィルさんを見て数人が「ウィル様じゃない?!」と歓声をあげていた。
「ウィル様。お久しぶりです。お帰りになっていたことは聞いていましたが、来てくださるとは思いませんでした。」
すると店主らしき太ったおじさんは、ぺこぺこと頭を下げながら言った。ウィルさんってこの国でどういう立ち位置なんだろうと不思議に思っていると、ウィルさんが「今日は友達を連れてきました」と言って私の方を見た。
「今回リオレッドから仕事で連れてきたんです。」
「初めまして。リオレッド王国のアリア・サンチェスと申します。」
店主のおじさんの目を見て、いつもよりずっと丁寧にあいさつをした。するとおじさんはしばらく固まった後、「初めまして」と返してくれた。
「エルフのお嬢さんを連れてきてくれるなんて…。感激です。」
リオレッド以外の国に行くと、エルフってだけでずいぶん注目を浴びてしまう。その視線には慣れてきたつもりだけど、改めて言われると少し恥ずかしくなって顔が少し熱くなった。
「あとテムライム王国騎士団長のエバン君。」
「初めまして。」
「もう一人が僕の弟、アラスターです。」
「いつも兄がお世話になっております。」
ウィルさんが次々にみんなを紹介すると、店内の女子たちがまたざわつき始めた。確かに二人ともイケメンだから、騒がれたって仕方ない。こんなくらいなら迷ってでも一人で来た方がスイーツを堪能できたかもと、少し後悔し始めた。
「リアにシオカラを食べさせたくて。」
「そうですか。それは嬉しいです。少々お待ちください。」
そう言って店主のおじさんは、キッチンの方に行ってしまった。
店の中はすでに甘い匂いで包まれていた。シオカラと呼ばれるのがどんなものなのか気になって周りを見渡してみたけど、女の子たちはほとんどを食べ終わっていて、皿は空になっているものばかりだった。
「早く食べたいな~。」
「お前はほんっとに食いしん坊だな。」
「食欲が出てきたみたいでよかったよ。」
私の言葉に反応して、二人が同時に言葉を発した。私が思わず助けを求めてウィルさんの方をみると、ウィルさんも困った顔をして「フゥ」とため息をついた。
「お待たせいたしました。」
しばらくすると、ウエイトレスの女の人がシオカラを持ってきてくれた。
「うわぁ…っっ!」
それはどこからどう見てもパンケーキだった。
ふわふわで分厚い生地の上にはバターらしきものと何かシロップみたいなものがかかっていて、見た目だけじゃなく、においもそっくりそのままパンケーキだった。
「美味しそうっ!」
私は両手を合わせて思わず大きな声で言った。
すると3人とも私を見てクスクス笑い始めて、一気に恥ずかしくなり始めた。
「どうぞ、食べて。」
「はいっ。」
みなさんどうぞと言うべきところなのかもしれないけど、私は遠慮なくパンケーキにナイフを通した。ふわふわの生地にはスッと簡単に切り目が入って、切っただけで明らかにしっとりしていることが分かった。
「いただきますっ。」
大きく一口を切って、そのままそれを口に入れた。
すると口の中でいっぱいにパンケーキの懐かしい味と、柑橘系の爽やかなソースの味が広がった。
「おいっっしいい…。」
涙が出そうになるほど美味しかった。ほっぺたが落ちるって、こういうことかもしれないって思った。ほっぺたが落ちないように思わず両手で両頬を抑えて言うと、ウィルさんもアルもエバンさんもこちらを見て少しびっくりした顔をした後、またクスクスと笑い始めた。
「リアはほんとに、かわいいね。」
クスクスと笑いながら、ウィルさんが言った。思いっきり感情を出してしまったことが恥ずかしくなって思わずうつむくと、店主のおじさんがこちらに寄って来るのが見た。
「いかがですか。」
「美味しすぎます…。持って帰りたいですっ!」
さっきまで恥ずかしいと思っていたはずなのに、思いっきり感情表現をしながらおじさんに気持ちを伝えた。するとおじさんはそんな私を見てにっこり笑って、「よかったです」と言ってくれた。
「アリア様は、ウィル様のご婚約者様ですか?」
そして店主のおじさんは、ニコニコ笑ったまま言った。
するとさっきシオカラを運んでくれたウエイトレスさんが、驚いた顔をしてこちらを見るのが分かった。
――――あ、ウィルさんのこと好きなんだ。
女の直感がそう言った。
思わず私がウィルさんの方をみると、ウィルさんもその人の顔を見て困った顔をしているのが分かった。
――――あ、両想いだ。
「「違いますっっ!!!!!!!」」
二度目の勘が働いたと同時に、アルとエバンさんが大きな声でそれを否定してくれた。大きな声を出してくれたおかげかウエイトレスさんにも聞こえていたらしく、彼女は遠くの方でホッとした顔をしていた。
「わたくしは…。妹みたいなものです。家族ぐるみで昔からよくしていただいているので。」
「そうなんですか。失礼いたしました。」
店主のおじさんはいろんなことを察した顔で、笑いながら言った。私も店主のおじさんに困った顔をみせながら、「とんでもないです」とお答えしておいた。
そのままウィルさんの顔を見ると、彼は少し困った顔を崩していなかった。エバンさんが私に言ったように、きっと複雑な事情があるんだろうと、また女の勘がそう言っていた。
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