第57話 物を運ぶのは私の仕事なのに…っ!
「えっっ!!!!!!」
次に意識を取り戻すと、ソファに座っていたはずの私の目にはどうみても自分の部屋の天井が入ってきた。驚きすぎて体を起こしてみると、窓からは明るい光が差し込んでいるのが見えた。
「失礼します。」
その時タイミングよく、ティーナが部屋に入ってきた。何が起こったのか全く思い出せなくて、「どうしよう…」と思わず口にすると、ティーナは驚いた様子でこちらに寄ってきた。
「ど、ど、どうされました!?やっぱり体調がよくないんですか?!」
ティーナは私の両肩を持って、普段より数倍動揺した様子で言った。私はとりあえずティーナの動揺を抑えるためにも「ううん」と言って首を横に振った。
「昨日私、下にいたはずで…。夜だったのに朝になってるし…。記憶、喪失かな?」
やっぱりエバンさんの言う通り、疲れていて記憶もなくなってしまっているんだろうか。それが少し怖くなっておびえながら言うと、ティーナはホッとした様子で息をフゥと吐き出した。
「運んでくださったんです。」
「運んで?」
なにを?というテンションで聞き返すと、ティーナは珍しくにっこり笑った。ティーナって結構美人さんだなと、全く関係ない事を考えた。
「エバン様が、ここまで運んでくださいました。」
「あ~なんだ。エバンさんが運んで…
運んで?!?!??」
何を?いつ?どこで?え?
運んで?!?運ぶ…?!え?!?!
状況がつかめないまま動揺し続けていると、ティーナは冷静に「はい」と答えた。
「昨晩リア様が談話室の方で寝てしまったようで…。それを見つけたエバンさんが運んでくださったんです。」
「ちょ、ちょっと…その話詳しく聞かせてくれる?」
確かに私はあの時エバンさんの肩を借りて寝た。でもまさかあれから朝まで…。しかも運んでもらって?
まだ信じ切れない私は、しつこくティーナに聞いてみることにした。
「はい。昨晩遅くに部屋にエバンさんが来られたんです。リア様を抱えた状態で。」
「どうやって?」
「えっと…このようにして…です。」
ティーナは両手を前に出して、私が抱えられていた時の状況を再現してくれた。それは誰がどう見てもお姫様抱っこの体制だった。
「リア様が寝てしまったから、部屋を開けてほしいと。そう言ってくださったので、部屋までお連れして、ベッドに寝かせていただきました。」
「そ、それで…?」
「あ、そこにあった荷物も運んでくださってますよ。」
そう言ってティーナが指さした先にあるテーブルの上には、昨日談話室で書いていた紙や私の筆記道具が置いてあった。ようやくすべてを理解し始めた私は、ベッドの上で両手で頭を抱えた。
「はぁあああ!何やってんだぁああ…っ!」
「お疲れのようでしたので、仕方ないです。」
お疲れはお疲れだったんだけど、まさかあのまま朝まで寝てしまうなんて…っ!
しかも部屋にまで…。それくらいならもっとキレイにしておけばよかった!女子力高そうなアイテム、たくさん置いておけばよかった…っ!!!!
「それだけ?!それですぐ帰ったんだよね?!?」
「えっと…。」
最後に念押しと思って聞いてみると、ティーナはなぜか赤い顔をして口ごもってしまった。「なんかあるの?!」と両肩を揺らして聞いてみると、ティーナは赤い顔をしたまま私の顔を恐る恐る見た。
「あの、えっと…。何かあったというわけではありませんが…。」
「なに?!」
「去り際に、えっと…。おでこに、キスを…。」
キス。
キスって、あれ?あの~あれだよね?
みんな知ってる、あれ?
あ、もしかして魚のキス?
だとしたらつまらん冗談だぜ、ティーナっ!
「愛おしそうに頭を撫でられてたので、見てはいけないかと…思いまして…。」
「ふわああああぁああああっ!」
発作みたいに叫び始めた私に驚いて、ティーナは「リア様?!大丈夫ですか?!」と動揺していた。でも自分自身だって全く大丈夫じゃない私は、しばらく頭を抱えたまま悶絶し続けた。
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