第58話 切り替えてしっかりお仕事します


悶絶している私をしばらく慰めていたティーナだったけど、本格的に時間がやばくなり始めたみたいで「準備の時間です!」と言った。それでも悶絶していると、ついにさっさとシャワーを浴びろと怒られた。


私は放心状態のままシャワーを浴びて、そしてそのままの状態でティーナに準備をしてもらった。



「おはようございます。」



そしてこれ以上動揺してしまわないように冷静な顔をして部屋に入ると、当然だけどそこには、部屋の隅の方で立っているエバンさんの姿があった。



エバンさんは私と目を合わせて、そしてにっこりと笑った。

それだけでも動揺が再燃して叫びだしそうになったから、私はなんとか頭を下げて、口パクで「ごめんなさい」と言った。



するとエバンさんはにっこり笑ったまま、首をゆっくり横に振った。

やっぱりどこかに消えてしまいたいくらい恥ずかしい気持ちを何とかおさえて、凛とした姿勢を保ちながら席へと座った。



「それでは早速、始めましょう。」



私の気分を切り替えてくれるかのように、ウィルさんが相変わらず堂々とした姿勢で言ってくれた。私はしっかりとスイッチを切り替える意味でも「はいっ!」と歯切れよく返事をして、昨日まとめた紙を机の上に取り出した。



「えっと、昨日考えたことがあるんですが、その前に一つ聞きたいことがあって…。」

「うん、なにかな?」



ウィルさんは穏やかな声で聞いてくれた。ようやく仕事モードになり始めた私は、体の中にたまっている動揺を息と一緒に吐き出して、確認すべきことを話し始めることにした。



「えっと…ルミエラスにも"バンク"のような役割を果たしている機関はありますか?」

「うん。あるよ。むしろどこよりも先にその制度を作っていたのは、ルミエラスかもしれない。」



「ここではダンデムと呼ばれるよ」と、ウィルさんはとてもあっさりと答えた。それくらいなら早くリオレッドやテムライムにも教えてくれよというツッコミは、一旦心の中にしまった。



「それではそのダンデムという機関は、信頼に足る機関だと言っても大丈夫でしょうか。」

「そうだね。僕もさすがに内情まで把握できていないからはっきり答えられないけど…。ダンデムは主に富裕層が利用している機関だし、資金面に関しては心配ないと思うよ。」



それを聞いて安心した私は「ならよかったです」と答えた。そしてどうしてそんなこと聞いたんだって顔をしている大人たちに、昨日まとめた紙を差し出した。



「"信用状取引"というものを作るのはどうか、と考えました。」

「信用状、取引…?」



今まではこの世界流に名前を変えてきた私だったけど、今回は前の世界で使っていたままの言葉を使って言ってみた。当然だけど「なんだそれ」って顔で、キョトンと差し出した紙を見ていた。



「信用状とは、商品を買う側のバンクが発行するもので、もし買う側から支払いがなかった場合、バンクが代金を支払いますと宣言する書類のことです。」



それから私は簡潔に、信用状取引について説明をした。みんな黙ったまま私の説明を聞いてくれていたけど、どう思っているか分からなくて途中から不安になった。



「と、いうものを考えましたが…。いかが、でしょう?」



完全に自信を無くした私は、遠慮がちにそう言った。するとウィルさんが一番に顔をあげた後、私を見てやっと笑顔を作ってくれた。



「素晴らしいよ、リア。よくこんなこと思いついたね。」



思いついたわけじゃないんですけどね。と、心の中で一応謙遜しておいた。

するとロッタさんもウィルさんに続くように、「すごいですね」とやっと一言目のセリフを口に出してくれた。



「そして国からはバンクに対して発行のお礼を支払えば、バンクにも利益があるってことだね。」

「はい。」



その通りです、ウィルさん。と、心の中で言った。平たく言うとそれは"手数料"だ。

やっぱり私の周りにはビジネスセンスがある人が多くてとてもありがたい。



「問題はルミエラスの方がリオレッドやテムライムのバンクを信用してくれるのか、というところにありますが、もしそれでも信用できないと言われるのであれば、最初は代金を先にお支払いする簡単な方法をとってもいいかと思います。」



ウィルさんは私が付けたそうとしていたことをすらすらと話した。

もうすでに私の手からこの新しい文化が旅立ったことを自分の耳で確認して、もう役目が終わったなという気持ちにすらなり始めた。

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