第55話 リスクを回避する信用状取引をつくろう!


「さっき言った通り案はあるのですが…。明日までに一度まとめてから、皆さんにお話ししてもよろしいでしょうか。」



頭の中に案はあったけど、まだ話が出来るほどまとめられていなかった。このまま話してはより一層ごちゃごちゃになってしまうと思って言うと、ウィルさんもロッタさんも「もちろん」と言ってうなずいてくれた。



「私も何かいい案がないか考えてみます。」

「そうですね。それではそれぞれ考えを持ち合って、明日朝またここで会いましょう。」





その後サクッとあいさつをすませて、私は一旦部屋に戻った。そして頭の中にまだかろうじて残っている、あの頃使っていた知識を紙に書き出してみることにした。



前の世界では、貿易をするにあたってお互いのリスクを回避するために、"信用状取引"というものがつかわれることがあった。


信用状とは輸入者側の銀行が輸出者に対して発行するもので、簡単に言うともし輸入者から支払いがなかった場合の支払いを銀行が保証しますと宣言する書類のことだ。


その書類があることで、輸出者は代金の回収ができないというリスクを回避することができるというのは最大のメリットと言える。銀行はその"信用状"を発行するにあたって輸出者に貿易書類などの必要な書類の提出を求め、その提出がされないことには信用状が発行されないため、商品が条件通り手に入るということにおいて、輸入者にもメリットがある方法といえる。



もう20年近く前の話なのに、信用状のシステムを書き出してみたらすらすらと思い出すことが出来た。自分って意外と勉強熱心だったなと前世の自分を感心しながら、この世界でこの制度が通用するのかを考えてみることにした。




「う~ん…。」



この世界にも、"銀行"のようなところはある。もちろんATMみたいな機械はないんだけど、お金を預かってくれたり利子をつけて貸し付けてくれたりする機能は果たしている機関で、名前をバンクという。



え、そのまんまじゃん、って?

もちろんじゃないですか。だって私が名付けたんだから。



あれはたしか12~3歳くらいの時。国が儲かるにつれて新しい事業みたいなのを始めたい人も増えて、お金が一時的に必要って声をよく聞いた。それを誰かがじぃじに相談して、そして私のところにも話が来たから、銀行を作ればいいってテキトーにアドバイスした。



そうしたら今まで家に入りきらないものを預かったりしていた人がじぃじの命を受けてお金を預かることを仕事にし始めたりして、それがどんどん発展していって今や銀行としての機能を果たしてるってわけ。



じぃじの命を受けて銀行を始めた人がパパの知り合いで、私にお店の名前を付けてほしいって言ってきたから、ややこしくないように"バンク"って呼ぶように言ったの。


貿易以外のところでも意外と活躍してるの、すごいでしょ?



「…じゃなくて。」



今は自分の自慢をしている場合ではまったくない。

テムライムもリオレッドから発想を得てバンクを作ったのは知っているけど、ルミエラスにもそのような機関があるかも分からない。



前の世界では企業と企業のやり取りに信用状が使われていたからそれは機能したけど、今の世界の取引はあくまでも国と国だ。


信頼できるか分からないって言っている国の銀行の信用状なんて、そもそも信頼してもらえるかどうかもよく分からなかった。



「もう分らんことだらけだな。」



本当に分からないことだらけだった。

でもこればっかりは、話してみないことにはわからない。



「そろそろ…。」



そろそろ国同士のやり取りにするのって、限界に近いのかもしれない。これから3国間でやり取りが増えて輸出入する商品も増えたら、それぞれ会社を作って取引していった方が円滑になるかもしれないな…。



「よくできてたんだなぁ。」



何もないところから何かを生み出そうとすればするほど、前の世界のシステムがとてもよく出来ていたことが分かる。こうやってみんな試行錯誤しながら作り上げてきたんだろうけど、何も知らずにその出来上がったシステムに胡坐をかいていただけの自分が恥ずかしい。



「恥ずかしいって…。まじめか。」



一人でごちゃごちゃと考えていたら、なんだか疲れてきて独り言が増えてしまった。

私は気分転換するためにも今書いている紙やペンを持って、ちょっと場所を移動して最終草案を作る事にした。

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