第54話 こっちのセリフですけど…?!
「なんなりと言ってください。」
もうやめろと叫んでいる私とは反対に、ウィルさんは冷静な顔を崩さずに言った。ウィルさんを見ていると、私も背筋を整えなければという気持ちになる。
一旦冷静な気持ちを取り戻した私は、次のヒヨルドさんの言葉に注目することにした。
「王は…。国交を結ぶことにとても慎重なお考えをお持ちです。」
「それは、当然でしょう。」
まあ、確かにそうだ。
今何もやり取りをしてない国と何かを始めるってなると、慎重になるってのもうなずける。ウィルさんは王がヒヨルドさんに政治を任せていると言っていたけど、もしかしてちゃんと優秀な王なんじゃないかと思い始めた。
「具体的に申し上げますと…。例えば実際に金銭のやりとりが始まるとなったときに、お支払いをしっかりしていただけるのかと、そういう心配をされています。」
いやいやいや、こっちのセリフだろそれは。
というツッコミは一旦置いといて、たしかにお金のやり取りが心配だという意見は全うなものではある。
先に代金を支払うとこちらが言ってしまえばそれだけの話なのかもしれない。
でも逆にこの国は信頼に足る国なのか?とリオレッドやテムライムの誰かが言い始めたとしたら、反論は出来ない。
ウィルさんもロッタさんももちろんそれを理解しているからか、しばらく黙ってしまった。この話し合いでは出来るだけ声を発しないでおこうと思っていた私だったけど、私には一つ、それを解決する方法に心当たりがあった。
「あの…。」
挨拶以来初めて私が声を出したことに驚いて、その部屋にいたみんなが私の方を見た。たくさんの目線を感じて一瞬驚いたけど、ここで情けない顔をしていてはみんな不安になると思って、しっかりと気持ちを立て直した。
「ご不安に思われるのは当然のことかと思います。その不安を解消して気持ちよく取引を始めるために、一つ提案があります。」
思っているよりもすらすらと言葉が出てきて、自分でも驚いた。
みんな今か今かと私の言葉を待っている期待が私には重く感じられたけど、話し始めたのは自分だから今更撤回することも出来ないから、なんとかしっかりした自分を保ちながら言葉を続けた。
「ですがその提案も、今私が考えた程度で、まだお話するには未熟で…。改めて相談してから提案させていただいてもいいでしょうか。」
案は浮かんでいるとはいえ、勝手にここで話すほど私は偉くなってないし、この世界で通用するかだってまだふわふわしている。とにかくしばらく考える時間が欲しくてそう言うと、ヒヨルドさんは「もちろん」と言って首を縦に振ってくれた。
「そもそもこちらがわがままを言っているのです。寄付をしていただけると言っているのに、お支払いの心配なんて恥ずかしいお話です…。」
本当にそうだと思う。
でも多分ヒヨルドさんだって、王様に言われている事なんだから仕方なく言っているんだろう。ヒヨルドさんの立場とか状況だってしっかりと理解している私は、ヒヨルドさんに「とんでもないです」と答えた。
「新しい国と国交を結ぶにあたって、お金の心配をされるのは当然のお話です。むしろ考えなしに来てまたお時間取らせてしまうことになり、こちらこそ恥ずかしいです。」
だいぶ謙遜はしたけど、その言葉だって100%ウソではない。
テムライムとリオレッドがいい関係を築けているからそんな心配は今までしたことがなかったけど、ルミエラスだってそうだとは限らない。
もし商品を出荷した後にお金も入ってこないし技術も売ってもらえない、なんてことになれば、本当に戦争の原因になってしまう。
本来ならそこも先に確認すべきだったと、本気で反省をした。
「それでは…1週間程度でよろしいでしょうか?」
「はい。十分です。1週間後、またここでお話ししましょう。」
本当は2~3日で家に帰りたかったのに、今回の滞在も1か月以上かかってしまわないかと心配した。そうならないためにも1週間以内にちゃんと話し合いを終えてリオレッドに帰るんだ!と決意して、去っていくヒヨルドさんたちの背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます