第51話 戦いの前の打ち合わせ
「…リアッ!!」
「ふぁいっ!」
眠りの余韻なんて全く感じることなく、耳元でアルに叫ばれて起こされた。
驚いて勢いよく体を上げると、そこには心配そうに私を見つめるティーナがいた。
「何度呼んでも起きないし死んだかと思った。」
「え、また転生…?」
「は?何言ってんの?」
死んだというワードを聞いて寝ぼけた頭が"転生したんではないか"と考えたけど、どうやらそれは違うらしい。アルはそんな私に「早くしろよ」とだけ言って、部屋を出て行ってしまった。
「リア様、大丈夫ですか?」
まだ寝ぼけて動けずにいる私に、ティーナが聞いた。
これ以上心配かけるわけにはいかないと私はゆっくりとベッドから立ち上がって、とりあえず鏡台の前に座った。
「ねっむ…。」
多分ちゃんと1時間くらいで起こしてくれたんだと思うけど、疲れは全く以って抜けていなかった。それでもやっぱり行かなきゃいけないと気持ちを立て直して、気合を入れるためにも両頬を叩いた。
「リア様…。今日はやはり、おやすみさせていただきましょう。」
「ううん、大丈夫。疲れてるのはみんな同じだから。」
ティーナだって同じ環境でここまで来たはずなのに、私だけこんなにへこたれてしまって情けないなと思った。するとティーナは心配そうな顔を崩さないまま、「そうですか」とだけ言った。
☆
「わぁ、いい匂い。」
支度を終えた後宿舎の食堂へと入ると、食堂いっぱいにいい匂いが漂っていた。思ったことを思わず口に出すと、先に来ていたアルが「フッ」と馬鹿にしたように笑った。
「お前、お腹減ってんじゃん。」
「うるさい。心配してくれてたんじゃないの?」
アルはその一言で反論が出来なくなったらしく、黙ったまま赤い顔をして自分の席についた。私が勝ち誇った顔で席に着くと、目の前に座っているエバンさんも心配そうな顔でこちらを見ていた。恥ずかしい。
「それじゃ、早いけどご飯にしましょうか。」
「はい。」
ウィルさんの号令で、給仕の方たちがご飯を運んできてくれた。ルミエラスの食事は、色も派手じゃないし味もとても美味しかった。
知らない土地に行くってなると食事が口に合うかって心配するけど、その心配はすぐに晴れた。少しずつ不安を減らせていることに安心して途中までは他愛もない話をしながらバグバグと食べ進めていた私だけど、思っていたより少し早めに満腹になってしまった。
「ごちそうさまでした。」
申し訳ないと思いながらご飯をすこしずつ残して、私はその場を何とかやりぬけた。そして食事が終わったあと暖かいお茶を飲んでみんなでホッとした後、明日のために最終確認をすることになった。
「えっと。あまり大きな声では言えませんが、この国での多くの決定は本日お会いしたヒヨルドさんがしていると思ってください。王はヒヨルドさんに政治の多くの決定権をゆだねています。」
リオレッドを出る前にきいたけど、ルミエラスがここまで発展したのはヒヨルドさんのおかげらしい。今はテムライムの人たちがいるからここでははっきりとは言わないけど、この国の王は自分さえよければそれでいい系のやつって言っていた。
「そしてルミエラスでとても問題となっているのが食糧不足です。文明の進化と引き換えに食料が不足し、飢餓で死んでいく人の数も年々増えています。」
ルミエラスはこれだけ栄えている街だけど、とにかく貧富の差が激しくて、そのせいで民衆の不満もたまっているらしい。このままでは近々の暴動が起きることは避けられないと、ウィルさんは読んでいるみたいだ。
「そこで我々リオレッドは、今の最悪な状態が改善されるまで、食料を一時的に寄付しようと考えております。」
「はい、それはリオレッド王からこちらの王にも提案がありました。もちろん賛成です。」
国が儲かっている今、隣国で飢えで苦しんで亡くなっていく人がいるなら手を差し伸べたいというのは、じぃじらしい考えだと思う。当然のようにテムライムの王様が賛成してくれるこの関係こそ、私たちが未来へずっと守っていかなければいけない大切な宝物だ。
「そしてその後、状況が落ち着き次第、徐々にこちらから農作物や食料、またはリオレッドで言えばドレスと言った名産品を買い付けてもらえないかと、交渉します。
しかし、リオレッドも国民を抱えた国。ただで売りつけるわけにはいきません。」
もし私がルミエラスの役人さんだったら、ウィルさんの説明でもう落ちていると思う。そのくらいウィルさんは頼もしくて、私なんてついてこなくてよかったんではないかと思った。
「その代わりにこの国にある技術を売ってもらうよう、交渉していきます。」
「異論ありません。」
ロッタさんはウィルさんの言い分に、大きく一つうなずいて同意した。
お互いのためを考えた、素晴らしい提案だと思う。
「それでは明日。皆さんよろしくお願い致します。」
ウィルさんは国を出る前に、私に一つ役割をくれた。
それは交渉が難航した時、パパが持ちうる"航路開拓"の知識を、交渉材料の一つにしてほしいとうことだ。
もしかすると私の出番はないかもしれない。ない方がいいんだろうけど、気も抜いてられない。
私は決意に満ちたみんなの顔をみて同じように一つうなずいて、もう一度気合を入れなおした。
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