第50話 思春期真っただ中かよ


「ではまた明日、お会いしましょう。」



その日はとりあえず宿舎に着いたところで、ヒヨルドさんたちと別れた。私はそのままの足で部屋へと向かって、そしてベッドへと倒れこんだ。



「リ、リア様?!」

「ティーナ、もうダメだ。」



さっきまでは驚きと緊張で気を張っていたせいかなんともなかったけど、部屋についてティーナと二人になると、一気に疲労と胃のムカツキに襲われ始めた。ベッドに寝転がってしまうともう起き上がれる気力がなくて、ティーナに一言「ごめん」と謝った。



「ティーナも疲れてるだろうから、一旦部屋で休んでて。」

「でも…。」



起き上がることもなくそういう私を心配そうに見て、ティーナは言った。でも私はその言葉を「ううん」ともう一回否定した。



「大丈夫。夕ご飯の時間になったら呼びに来てくれたらいいから。」



あれ、これ、テムライムの時と同じじゃん?

デジャブじゃん?起こしてもらえないやつじゃん?



そこでやっとテムライム遠征の時のことを思い出した私は、ベッドから勢いよく体を起こした。



「いや、寝てらんない。起こしてもらえないし。」

「おい、リア。」



するとその時、デリカシーの全くないアルが、ノックもせずに部屋に入ってきた。そんなアルをギロっとにらむと、アルは「なんだよ」と言って一歩身を引いた。



「ドア空いてんだよ。警戒心ないな。」

「す、すみませんっ!」



アルの言葉を聞いて、ティーナは急いでドアを締めにいった。でもドアをちゃんと閉めなかったのは、後から入った私のせいだ。自業自得だってそこでようやく気が付いて、「いや、私のせいだよ」とティーナに言った。



「アル、ちょうどよかった。」

「なんだよ。」

「ちょっと寝るから、1時間後くらいに起こしてくれる?」



ティーナに頼むと恐縮されてまた寝かされそうだ。さすがに毎回寝過ごすのは大人としてどうなのかって思った私は、絶対に起こしてくれそうなアルにその役を頼んでみることにした。



「でもお前、夕飯食えんの?」

「う~ん、それは分かんないけど…。明日のためにお話には参加したい。」



食事のときって意外と大事な話もするもんだ。

テムライムに行った時はパパがいたから任せればいいやと無責任なことも考えていたけど、今回はそういうわけにはいかない。寝過ごして明日焦るなんてことがあればみっともないと思って言うと、アルが「わかった」と言った。



「いいけど…。」

「けど?」


一回は分かったと言ったくせに歯切れの悪いことを言われて、私は不信感をあらわにしてアルを見た。するとアルはなぜか少し照れた顔をした後、小さい声でブツブツと何かを言った。



「なに?」



本気でなんて言っているのか聞こえなくて、大声で聞き返した。するとアルは私を目を合わせることなく「だーかーらー!」と叫んだあと、顔を真っ赤に染めた。



「無理すんなよって言ってんの!」



アルは大げさなくらい大声で、顔を赤くしたまま言った。



なんだよこいつ、心配してくれてんのか。



思春期の男の子みたいに照れ隠しをされたのが面白くて、つい吹きだすみたいにして笑ってしまった。するとティーナもそれを見て、珍しく笑っていた。



「なんだよ。もうお前なんてしらねぇ!寝過ごしてしまえ!バーカ!」

「はいはい、頼んだよ~。」



怒って部屋を出て行ったアルに、念押しするようにそう言った。アルを見送った後、私とティーナはもう一度目を合わせて笑った。



「子供じゃないんだからね。」



ティーナは何も言わなかったけど、楽しそうに笑っていた。

私はアルが起こしてくれるならと安心して、またベッドに横になった。



「ねぇ、ティーナ?」

「はい。」



そんなに深く考えることもなく、また新しい国に来てしまった。本当に大丈夫なのだろうか。私だけで何とかはなせるんだろうか。


体調が万全じゃないせいか、急に不安に襲われ始めた。



「うまく、いくかな?」



そんなこと聞いたってティーナが答えにくいって分かってるのに、つい口がきいてしまっていた。するとティーナは「そうですね…」と言った後、「私には、わかりません」とはっきり答えた。



「だよね…。」

「でも…。」



変なこと聞いてごめんと謝ろうとすると、ティーナは付け足すみたいにしていった。

何を言われるんだろうとびくびくしながら体を少し起こすと、ティーナは穏やかな顔で私を見ていた。



「リア様は、誰にでも愛されるお方です。」



いつも自信のないティーナが、はっきりと私の目を見て言ってくれた。なんだかティーナも少し明るくなったなと、そう思った。



「ありがとう。そんなこと言われたら勘違いしちゃいそう。」



嘘のないティーナが言ってくれるんだからと、私はその言葉を鵜吞みにした。

それで少し安心したのかしばらくすると眠気に襲われて、知らないうちに私の意識は夢の世界へと連れて行かれた。

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