第49話 ルミエラスの景色


「リア、大丈夫?」



それから2日間、船に揺られている間にあっという間にルミエラスに到着した。テムライムに行った時は大きな船だったから大丈夫だったけど、今回小さな船だったせいってのもあって完全に船酔いしてしまった私は、2日間のほとんどを寝て過ごした。



「はい、なんとか…。」



よっぽど顔色が悪いのか、船がついてもまだシャキッとしない私を見て、エバンさんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。私は今作れる最高の笑顔でそれにこたえて、しっかりと背筋を伸ばして立てるよう心掛けた。




「う、うわぁ…。」



慎重に船を降りて一歩ルミエラスに足を踏み入れると、そこは別世界だった。

そこにはリオレッドにもテムライムにもない高くて頑丈そうな建物がいくつかあって、それに街中には当然のように馬車みたいなものが走っていた。


それに道沿いにはいくつも街灯みたいなものもあって、それは鉄みたいな素材で出来ているように見えた。



「ウソ、でしょ…。」



それはまるで、テレビや映画で見たことのある大正や明治時代の日本みたいな様子に見えた。車はまだ走っていないものの、みただけで文明が発達しているのが一目で分かって、ウィルさんがここに来たがる意味も一瞬で理解できた。



「すごいでしょ。」



とにかく驚いている私の耳元で、ウィルさんが言った。

私は言葉を失って何度も「うんうん」とうなずいて、周りを見渡した。



「ウィル、久しぶりだな。」



するとその時、お迎えの人であろう3人の人がウィルさんの方に寄ってきた。私たちは自然とその人たちに礼をすると、その人たちも同じようにあいさつを返してくれた。



「この度は本当にありがとうございます。」

「いや、こちらこそだよ。」



その人は国の宰相さん的な立ち位置の方らしく、名前をヒヨルドさんというと紹介してくれた。何でもこのおじさんがゾルドおじさんと仲良しで、ウィルさんが留学したいと言った時も色々と手助けをしてくれたらしい。



「初めまして。リオレッド王国サンチェス家長女 アリアと申します。」



この人は多分今後お話を進める上でとても大切な人になるに違いない。

私は疲れた体に鞭打って出来るだけキレイにあいさつをすると、その人は私を見て固まってしまった。



「え、えっと…。」



もしかしてこの国ならではの挨拶とかそういうものってあったかしら。

こんなことならもっとちゃんとウィルさんに色々と聞いておけばよかったと後悔していると、ヒヨルドさんが「す、すいません」と言って動き出した。



「わたくしエルフの方と初めてお会いしまして…。その、噂通り、お美しくて、つい見とれてしまいました。」



少し照れた様子だったけど、はっきりとした口調でヒヨルドさんは言った。そんなにまっすぐ言われるのが久しぶりで今度は私の方が照れてしまって、「あ、ありがとうございます」と動揺したまま答えた。



「お初にお目にかかります。テムライム王国ロッタ・ラスマンです。」



それから次々に、私たちは挨拶を交わした。

一通り挨拶が終わるとヒヨルドさんが一旦宿舎の方に連れて行ってくれるというので、私たちは案内されるがままに馬車に乗り込んだ。



馬車から見る景色は、やっぱり素晴らしかった。

まず馬車自体の車輪も木ではなく鉄みたいなもので出来ていたし、道だってキレイに舗装されていた。そしてテムライムやリオレッドと同じようなレンガ造りの家が立ち並んでるんだけど、でも壊れている場所とかそういうのが少ない感じがした。



「すごい…。」



私は流れていく景色をジッと見つめて、どうして今までここに来なかったんだと、後悔した。



「リア、落ちるぞ。」



するとその時、隣に座っていたアルが私の腕をつかんだ。

私が気が付かないうちに前のめりで外の景色を見てしまっていたらしく、もう少しのところでアルが止めてくれた。



「ねぇ、アル。すごいね!」



でも落ちるとか落ちないとかそういう事の前に、私はとにかく興奮していた。その興奮をそのままにアルに伝えてみると、アルは少し照れた顔をして「おう」とだけ言った。



「気に入った?」



するとその光景を見ていたウィルさんが、ニコニコ笑いながら聞いてくれた。私も同じように笑いながら「はいっ!」と元気に返事をして、そしてまた外の景色を眺めた。



この世界にも、こんなに栄えたところがあったんだ。

上手く話を進めれば、もしかするともっともっと世界に変化が生まれるのかもしれない。


その景色を見ると同時に燃え尽き症候群が一気に直った私は、馬車が宿舎へ到着するまで、私たちの未来が今度どう変わって行くのかと妄想し続けた。

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