第42話 お待たせしました、認めます
騒ぎ続ける民衆を避けるために、私はエバンさんの陰に隠れるみたいにして小さくなっていた。しばらくすると人気のない辺りに出始めたから、そこでやっと顔をあげて、辺りを見渡してみた。
「どこ、いくの?」
「ん?」
エバンさんは余裕そうな表情でウマを乗りこなしていた。私はエバンさんと触れているところが熱くて、まったく余裕が持てそうになかった。
「僕の好きなところ。」
エバンさんはそう言って、私を見て笑った。今までで一番顔が近くて、顔から火が出るんじゃないかってくらい恥ずかしかった。
いつからこんな17歳みたいなこと考えるようになったんだろう。
いい大人の私が触れただけでドキドキしているなんて恥ずかしい気もしたけど、だからと言って心臓の音は止まりそうになかった。
「ここら辺はのどかでしょ。」
するとエバンさんはあたりを見渡しながら言った。
その言葉を聞いて恥ずかしくてうつむいていた顔をあげてみると、確かにその辺りは、街とは違ってすごくのどかだった。
多分街からはまだ5分くらいしか来ていないと思う。それなのに風景はまるで違う国みたいに変わっていた。
周りにはたくさんの畑や木々、そして奥の方には森みたいなところが見えて、そこで農業をしている人や走り回って遊んでいる子供たちもいた。
「昔、こういうところに住んでたの。」
その景色はまるで、生まれた家の周りみたいだった。きょろきょろと見渡してみたら懐かしい気持ちが湧いてきて、とても暖かくて、なんだかちょっと寂しい気持ちになった。
「ああいう森でね、
奥の方に見える森は、まさに私がポチに会ったところに似ていた。そう言えば最近あまり帰れてないけど、ポチは元気だろうか。あの家をメイサに渡してから、ポチの世話もメイサやレオンさんに任せている。
ポチは他の仲間たちと暮らしているはずだけど、ママやパパは少し前に死んでしまっている。もしかして寂しい想いをさせているかもしれないから、帰ったらすぐに会いに行こうって決めた。
「怖くなかった?」
するとエバンさんは少し困った顔で聞いた。だから私は出来る限り優しい笑顔をして「ううん」と言った。
「最初はね、赤ちゃんの
当時私は3歳だってってことを思い出して、「あまり覚えてないけどね」と急いで付け足して言った。するとエバンさんは「ふふふ」と楽しそうに笑った。
「すごいね、リアは。」
「すごい?」
「うん。」
エバンさんはそう言って、私の頭に手を置いた。少し落ち着いていた心臓が、またバクバクと高なり始めた。
「初めてのこと、誰より先に挑戦しようとしてる。怖がらず、いつもまっすぐに。見てるこちらが怖くなる時があるけどね。」
初めてのことじゃないから挑戦できるんだけど、エバンさんがほめてくれるならそういう事にしておこうって思った。その間も私はエバンさんの胸のあたりに、すっぽりとくるまれていた。
「ママにもすごく怒られたよ。
「そう言えばゴードンさんがそんな話してた。」
「え?!何聞いたの?!」
「秘密。」
余計なことはなされてないかなと心配になって何回も聞いたけど、エバンさんはなにも教えてくれなかった。昔おねしょしちゃったこととか、毎日泥団子をどれだけキレイに作れるか挑戦してたこととか、言われてたらどうしようと思った。
「エバンさんは?どんな子供だった?」
話をそらすために、エバンさんのことを聞いてみた。するとエバンさんは「そうだな」って少し考えこんだ後、「おとなしかったと思う」と言った。
「妹がいるんだ。2人。だからいつも小さくておてんばな妹に手を焼いてて、だから大人しい子だったと思う。」
「へぇ、妹さんいるんだ。エバンさんの妹なら、きっとかわいいでしょうね。」
エバンさんの妹なんだから、さぞキレイな子なんだろうなって思って言った。するとエバンさんは「うん」って言ったけど、ちょっと困ったみたいに笑った。
「かわいいんだけど、本当にわがままに育っちゃた。二人とも。欲しいものはすぐにおねだりされるしね。」
「おかげで女性もののドレスにも詳しくなったよ」と、エバンさんは付け足して言った。
―――あ、だからキャロルさんと親しいのか…。
って何ホッとしてんだよ、私。見苦しいぞ!
「しょうがないよ。エバンさん優しいもん。」
ごちゃごちゃしている自分の気持ちを隠すために言った。でも自分でも顔がにやけていたのが分かったから、内心よかったと思っている気持ちは全然隠しきれていなかったと思う。
「そうかな。怒ったときもあったんだけどな。」
でもエバンさんはそんな私の気持ちに気が付くはずもなく、困った顔で言った。エバンさんが怒るなんて全く想像がつかなくて、「怒るってどんな風に?」と聞いてみた。
「う~ん。コラッ!ダメでしょっ!って。」
「それ、全然怒れてないと思うよ。」
「え~?そうなのかな…。」
私たちはそれからも、テンポよくお互いの話を続けた。
エバンさんは3歳からもう剣術の修業を始めていたことや、勉強は少し苦手だったってこと。国を守る仕事は嫌いではないけど、人と争うことはあまり得意でないこと。
「あと僕一つ後悔があって。」
「ん?」
「リオレッドで
「好きなの?」
「うん。スイーツは結構好き。」
今度おばさんに、ワッフルの美味しい作り方を習おうと思った。
そしていつか、私が作ったものを食べさせてあげたいなって、そう思った。
うん。これもう。そろそろ素直に認めちゃおうか。
――――私、エバンさんが、好きだ。
「リア、もうすぐだからね。」
「う、うん。」
心の中で言葉にしてみた途端に、自分でもそのことをはっきりと自覚してしまった。動揺でもうエバンさんの顔が見れなくて、ただただ精神統一をするために、自分の手だけをジッと見つめ続けた。
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