第41話 バイクデートならぬウマデート


それから滞りなく業務は進んだ。

相変わらずバタバタと忙しかったけどもう少しで帰れるって思ったら、なんだか仕事もはかどった。


そしてついに明後日、帰国することが決まった。帰る前日では慌ただしいだろうって王様が前々日の今日に会食をセッティングしてくれたから、その日は朝から仕事をすることなく、昼過ぎくらいには晩さん会への準備を始めた。


行きたくなさが加速しているせいで、準備にはすごく時間がかかった。ごねている間に気が付けばもうすぐ夕方になりそうで、パーティーの時間は刻一刻と迫ってきた。



「はぁあああ~~。」

「リ、リア様。髪型が崩れてしまいます。」



早めに準備を終えた私がベッドに飛び込むと、ティーナが焦っていった。私はそう言われてもベッドから立ち上がろうとせず、「いやだ~~~」と叫んだ。



「行きたくないよぉ~、ティーナぁ…。どうにかならない?」

「わ、わたしでは、どうにも…。」

「はぁああああぁ~~~~。」



大きくため息をついた私に、ティーナは悪くもないのに「すみません」と謝った。



「ティーナは悪くないんだよぉ~~。はぁ。」

「リ、リア様…髪の毛が…」



コンコンコンッ



駄々をこねつづけていたその時、部屋をノックする音が聞こえた。

パパが早めに迎えに来たかなと思った私は「は~い!」と元気に返事をして、ぐちゃぐちゃになった髪の毛を直すことなくドアを開けた。



「こんにちは、リア。」

「え…?」



そこに立っていたのは、なんとエバンさんだった。

予想外過ぎる人が立っていたことに驚いて、私は一瞬にして動きを停止させた。



「迎えに来たよ。」

「迎え…に?」



エバンさんの声で正気を取り戻した私は、急いで手で髪の毛を直した。するとエバンさんはそんな様子をみてクスクス笑って、「うん」と言った。



「まだちょっと早いけど、迎えに来たんだ。一緒に行きたいところがあるって言っただろ?」



そう言えばそうだった。

忙しい日々を過ごしているうちにすっかり忘れていたって思っていると、エバンさんが「もしかして忘れてた?」と言った。



「う、ううん!覚えてた!」

「ふふふ。」



全部わかってるって様子で、エバンさんは笑った。恥ずかしくなってうつむいていると、「行こう」とエバンさんが言った。



「でもパパが…。」

「大丈夫。さっきお願いしてきたから。リアを連れてっていいですかって。」



そう言ってエバンさんはティーナを見て「いいよね?」と言った。するとティーナはアタフタしながらも「少々お待ちください!」と言って、部屋のドアを閉めた。



「リア様!こっち!早く!」



まるで別人みたいに、ティーナが私をせかした。私がその変わりように驚きながら鏡台の前に座っているうちに、ティーナ息つく暇もなく仕上げを始めた。



「ティーナ、私…。」

「大丈夫です。いつも通りとてもキレイです。」



いや、そういうことじゃないんだけどさ。


って思っているうちにティーナは準備を終えて、私を立ち上がらせてドアの前まで連れて行った。



「お待たせしました。」

「ううん。せかしてゴメンね。」

「リア様。いってらっしゃいませ。」



この人は本当に同じ人なんだろうか。

驚いてティーナの方を見ていると、エバンさんが「リア、行くよ」と言った。私はもう何も訳が分からないまま「はい」とだけ返事をして、とりあえずなんとかエバンさんの背中を追った。





宿舎の前にはエバンさんが連れてきたらしい大きなウマがいた。

そのウマは騎士団のマークっぽい旗をつけていて、そこにいるだけでテムライム国民の人たちは注目していた。


にもかかわらずエバンさんはそんなこと気にすることもなく、軽々とウマに乗って、私に向けて右手を差し出した。



「ほら。」



ほらじゃねぇよ。

こんなみんなに見られながらウマに乗るって罰ゲームかよ。


なんでこんな注目される方法を取ったんだ!!


って思ったけど、多分この人は注目される事なんて慣れっこで、気にもなっていないんだろう。


その証拠に周りで騒ぎ始めている人たちのことなんて目にも入ってない様子で、「乗れる?」と優しい目をして私に聞いた。




私はついに観念して、エバンさんの手を取った。すると彼は片手で軽々と私の体を持ち上げた。私はエバンさんに手を差し出しただけで、知らないうちにエバンさんの前でウマの上にお姫様座りをしていた。ギャラリーたちはより一層騒ぎ始めていて、穴があったら本当に入りたいって思った。



「ごめんね、馬車リゼルじゃなくて。でも二人だからこっちの方がいいかなって思って。」



誰かと二人乗りするのは、パパ以来初めてのことだった。それに大人になってからウマの背中に乗るのだって初めてで、どう乗ればいいのかにも戸惑ってしまった。


「ほら、ここ持って。」


エバンさんは私に手綱を持たせた後、抱き着くみたいにして自分も手綱を持った。そしてなれた様子でウマに指示を出すと、ウマはそれに従ってゆっくりと歩きはじめた。




まるで、バイクに二人乗りでデートをしているようだなって思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る