第39話 未来のためになる手助けをしているだけです


「これじゃあ日が暮れちゃうわ!アリアさん、始めて!」

「かしこまりました。」


あらかじめ持ってきていたドレスたちを、部屋に入れてもらった。そしてその中でとりあえず一着だけ手に持って、奥様達に見せた。



「こちらがリオレッドから持ってまいりましたドレスです。本日はぜひ、一度着ていただきたいと思っております。」



奥様達は初めて見るドレスを、しばらく黙ってじっと見ていた。するとその静寂を切るように、一人が「すばらしい!」と大きな声を出した。



「見ただけで分かりますわ!縫製がとても細かいもの。」

「本当ね。デザインもとても素敵。」

「王妃様はどれを着られますか?」

「そうね…。どれが似合うかしら。」

「このブルーのものなんてどうです?ジーナ様にピッタリだと思いますわ。」

「わたくしもそう思います!」



まるでせき止めていた水が一気に流れていたみたいに、奥様達はドレスに寄ってきて一斉に話し始めた。一瞬静かになったからとても不安に思った私だけど、その様子を見て「ふぅ」と小さく息を漏らした。



奥様達はそれぞれ好きなものを選び終わったみたいだった。そして「じゃあ行ってきます」と口々に言った後、そのドレスをもって後ろにある扉にそれぞれ入って行った。


その部屋はまるで、試着室みたいな造りになっていた。もともと一斉にお支度するときに使う部屋だったみたいで、個室の中には既に使用人の方が待っていた。



「分からないところがあったらお呼びください。リオレッド王国 ティーナがやらせていただきます。」

「よ、よ、よろしくお願い、し、しますっ!」



ティーナはやっぱり固まったままそう言った。私は緊張し過ぎのティーナが少し面白くなってしまって、「大丈夫だから」って言いながら笑ってしまった。



「ティーナさん!こちらいい?」

「次こちらも!」

「こっちも頼むわ!」



それからというと、ティーナは緊張する暇もなく忙しくなってしまった。そしてティーナはあのおどおどした様子からは想像も出来ないくらいテキパキと支度をして、ものの15分くらいで呼ばれた人すべての支度を終えた。



そしてティーナが支度を終えた順に、奥様達が続々と個室から出てきた。その様子を緊張しながら見つめていると、出てきた奥様達はキョロキョロとお互いの姿を見合った。


「これ…。」


周りを見渡したまま、奥様達はしばらく黙っていた。私は誰かが何かを発するまで緊張が崩せずに、ただその場に立ち尽くしていた。



「これ、本当に着心地がいいわ。」

「すごく肌に優しい感じもするし、ピッタリフィットする感じもあるわよね。」

「私、感動しちゃった。アリアさん、これおいくらで買えるのかしら?私いくつでもほしい!」



すると奥様達は、またダムから水があふれてくるみたいに次々に言葉を発し始めた。

私はその光景を感動すら覚えながら見つめていた。でも奥様達が賑やかすぎて泣くなんて気分にはならなくて、思わず私は「ふふ」と笑ってしまった。



「みなさん。一旦落ち着いてください。」

「そうね、落ち着きましょう。」



王妃の一言で冷静を取り戻した奥様方は、ジッと王妃様の方を見た。




「アリアさん。この通りよ。ぜひこれを、テムライムにも売っていただきたいの。」




王妃は私を見て可憐に笑った後、そう言ってくれた。

私は大げさに大きく頭を下げて、「あ、ありがとうございます!」と大きな声で言った。



「アリアさん。」



するとそんな私を、王妃はとても優しい声で呼んだ。その声につられて頭を上げると、やっぱり王妃は女神みたいな笑顔でそこに立っていた。



「こちらのセリフよ。あなたの国でもないのに、この国のことを考えて行動してくださっているのよね。お父さまも含めて、どうお礼をしていいか分からないわ。」

「い、いえ…。そんな…。」



今回なんて私、テムライムのためってより、ビジネスの香りを感じただけなんです…。



王妃が本当に感謝していってくれるもんだから、私は罪悪感すら覚え始めた。でも王妃は「本当にそうなのよ」と言って、私の方に近づいてきた。



「テムライムは本当に、あなた方のおかげで変わりました。テムライムを代表して、感謝申し上げます。」



王妃はそう言って、丁寧に頭を下げてくれた。そしてそれにつられるようにして、奥様方も私に向かって頭を下げた。



「い、いえ。やめてください。本当に。」



本当にやめてくれと思った。

そんな風に感謝されたら、これからだって頑張らざるを得ないじゃん。もしかしてそれがこの人たちの狙いなのか?と歪んだことを考えながら、顔をあげた王妃に出来る限りの笑顔を作った。



「リオレッド王に、昔からテムライム王国には色々な恩を受けていると聞いております。先代の王からも、返しきれない恩をもらっていると。」



じぃじはよく、テムライムの先代の王には頭が上がらなかった話をしている。いがみ合いをしている時、その先代の王のおかげで、それがおさまったらしい。



「私はそのリオレッド王から、返しきれない恩を受けています。その王が恩を受けた国に、私が貢献しない理由がありません。」



これはいわゆる、恩返しだ。

私自身はそんなに素晴らしい人間ではないんだけど、じぃじのことは本当に尊敬しているし、そのじぃじが素晴らしい国を作りたいというなら、それを助けたい。



「そしてテムライム王がリオレッドに来られた時、未来のためになることをしたいと、言っておられました。国民のことを心から考えられているテムライム王を心から尊敬し、そして何か手助けがしたいと思っておりました。」



この国にきて、私はより一層テムライムのことが好きになった。お互いにもっと仲良くなれるのであれば、その道を進みたいと思った。



「私が少しでもためになったのだとしたら、こんなに光栄なことはございません。」



胸に手を当てて、ゆっくりと頭を下げていった。すると王妃はそんな私を、そっと抱きしめた。



「なんて、素晴らしい子なのかしら。リオレッドの未来は、明るいわね。」

「王妃、様…。」



それはこちらのセリフですと、心から思った。

この世界に来てから、本当にいい人にしかで会っていない。


そう言えば、あのクソ王子は元気にやってるだろうか。

テムライムの王が来た時も結局話はしなかったから、もう10年くらい近くで見ていない。


まあクソはクソなんだろうな。




――――あ、また他のこと考えてる。

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