第38話 大阪のおばちゃんたちに出会いました


「こちら、父からも説明させていただいた通り、リオレッドのドレスです。今回レルディアにあるお店の中でも特に人気のお店から送ってもらいました。」



そのお店は貴族や王族御用達のお店で、前テムライム王が来られた時に着たドレスを買った店でもある。そのお店の中でも人気があって、上質なものを指定して送ってもらった。



「ではアリアさんもよく買い物されるのね。」

「いえ、私は…。母が厳しいので、いつも王にご褒美としていただくばかりです。」

「まあ、可愛らしい子ね。」



本当のことを正直に言うと、王妃様はまたお花を咲かせたみたいに可憐に笑った。エバンさんの言う通り、すごくいい人そうだと思った。



「胸のあたりを触ってみていただけませんでしょうか?」



生地が一番多く当たるその辺りを触るだけでも、違いが分かると思って言った。すると王妃は素直に立ち上がった後、胸のあたりの裏地に触れた。



「まあ。」



王妃は驚いた顔で私を見た。私はなんとかガッツポーズをおさえながら、にっこり笑ってみせた。



「リオレッドの縫製技術は他国と比べても非常に高いと思っております。ですが言葉で説明してもなかなか伝わらないと思い、今回このような場を設けていただくこととなりました。」

「ええ。聞いておりますわ。」



王妃はにっこり笑って私を見た。私はまぶしくて倒れそうになる感覚を何とかおさえながら、「よかったら…」と小さく切り出した。



「よかったら、着てみませんか…?」



出来るだけ恐る恐る、私は切り出した。すると王妃はパアッと明るい顔をして、「ぜひ!」と言った。



「そう思って今日は何人か、大臣の奥様達も呼んでるのよ。」



王妃はやっぱりニコニコして言った。まるで女神だなって思った。



「さあ、行きましょう。早く着てみたいっ!行ってくるわ、あなた。」

「ああ。ゆっくりしておいで。」


王妃様は「アリアさんこっちよ」と楽しそうにいいながら、私を案内してくれるみたいだった。私は「はいっ」と元気に返事をして、パパに「行ってくるね」とだけ言った。



「ティーナ、行くよ。」

「は、は、は、はいっ。」



王妃の様子でやっと緊張が解けてきた私に対して、ティーナはカチコチになりながら返事をした。自分より緊張している人をみていたら、緊張がマシになっていく感じがした。私はいつもパパが私にしてくれるみたいに、ティーナの背中をポンと押した。


ティーナは目を覚ましたようにハッとした顔をして、私をみた。私は出来るだけ優しく笑って、一つうなずいてみせた。



――――負担をかけてごめん。



ティーナは私の支度をするためについてきただけで、隣国の王妃の支度をするなんて聞いていなかったと思う。

メイサの時もそうだけど、私は自分の野望のせいで人のことも巻き込んでしまう。本当は宿舎でゆっくり待ってられるかもしれなかったのに、私のせいでこんなことになってしまって申し訳ない。


そんな意味も込めて背中を押すと、ティーナはそれに合わせて足を前に出して「ありがとうございます」と小さく言った。



ひとまず安心した私は、王妃に促されるまま近くの部屋へと向かった。するとその部屋には王妃が言った通り、数人のキレイなおばさんたちが王妃に礼をして待っていた。



「こちらリオレッド王国の運送王の娘さん、アリアさんよ。」

「お初にお目にかかります。アリア・サンチェスと申します。本日は本当にありがとうございます。」



今ではすっかり慣れてしまった挨拶を私の口が半ば勝手に言うと、奥様方はそろって挨拶をした後、少しざわざわとし始めた。



「王妃様、噂通りキレイな子ですねぇ!」

「ほんっっとに!びっくりしちゃうわぁ。」

「わたくしエルフ族の方って初めて拝見しましたわ。もう本当、妖精さんみたい。」

「髪の毛も星みたいに輝いてるわねぇ。」



途切れることなく次々に、奥様方はお話しし始めた。


王妃が来たらみんなびしっとして固まるんだと思っていた私は、その光景に最初は驚いていた。でもしばらく聞いているうちになんだかおかしくなってきて、思わず「ふふふ」と笑ってしまった。



「ほら、みなさん。あまりおしゃべりしてるとアリアさんに笑われちゃうわよ。」

「そうですね、ジーナ様。でも本当に可愛いから…。」



なんていうかたとえるなら"大阪のおばちゃん"って感じの賑やかさだった。

やっぱりお城の色が賑やかなのも、人が暖かくてよくお話するのも、きっと国民性なんだろうな。


一度王妃様が止めたのにも関わらず、おしゃべりはしばらく止まらなかった。私はその賑やかな光景をしばらく眺め続けて、今日はうまく行きそうだって早くも思い始めていた。

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