第37話 テムライムの美しい王妃様
「リオレッド王国 サンチェス家よりゴードン様とアリア様が参られました。」
「入れ。」
扉の中の部屋には、じぃじと初めて会った部屋と同じように、まっすぐ王まで続くカーペットが敷かれていた。そしてこれまた同じように、王様と王妃様は階段の上にある大きくて豪華な椅子に座っていた。
「本日はお時間いただきありがとうございます、テムライム王様。」
パパはテムライム方式の敬礼をして言った。私も事前にキャロルさんにならっていたテムライム式の女性の挨拶の形をとった。といっても、リオレッドとほぼ一緒なんだけど。
「もちろんだ。君たちの尽力は耳にしている。本当に感謝する。」
そう言って王様は、王妃様と腕を組んで階段を下りてきた。
王妃様は王様と同じく、40代くらいの女性だろうか。年齢はよくわからないけど、とにかく品があって、見とれてしまうほどにキレイな方だった。でもそのキレイさこそ私の緊張を加速させて、私は久しぶりに体を固まらせてその場に立ち尽くしていた。
「紹介しよう。王妃のジーナだ。」
「初めまして。ゴードン様、アリア様。王からお話は伺っております。」
そう言って王妃は、すごく華麗に作法の姿勢をとった。同じ姿勢をしたはずなのに、私のものとは全然違う気がした。品だけじゃなくてなんというか。女性らしさみたいなものまで感じる作法だった。
「王妃様、初めまして。リオレッド王国サンチェス家ゴードンと、娘のアリアでございます。」
「は、初めまして。」
パパの言葉につられるみたいにして、私は出来るだけ王妃がしたように挨拶をしようとした。でも私の実力ではやっぱり、やんちゃで不格好なものにしかならなかった。
「アリアさん。王から聞いてはいましたが、本当に美しい子ね。」
「い、い、いえ…。とんでもございません。」
本当に、とんでもございませんよ…。
久しぶりに口をどもらせて言うと、王妃は「ふふふ」と笑った。顔の周りにお花でも咲いているんじゃないかって思うほどに、可憐な笑顔だった。
「来てもらって早々悪いが、場所を変えよう。」
「はい。」
王様がそう言うと、数人の部下の人が私たちの前にやってきた。その間に王様も王妃様と腕を組んで、どこか別の部屋に向かっていった。
そして私たちも、王様の部屋のすぐ近くにあった会議室のようなところに通された。部屋の中に入るとそこにはエバンさんの姿があった。こんなところにいたんだと私が思っている間に、彼は私と目を合わせて口パクで「頑張れ」と言ってくれた。
――――うん。頑張る。頑張れる。
それだけで少し勇気が湧いてくる感じがした。
私は返事の代わりに小さく首を縦に振って、パパみたいに凛々しい顔で椅子に座って見せた。
そのあとしばらくして王と王妃がその部屋に入ってきた。それを見て私たちはいっせいに立ち上がったけど、王は「座ってくれ」と一言だけ言って、一番前にある大きな椅子へと座った。
「早速ですが、本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。」
王が椅子に座って早々に、パパはそう切り出した。
貿易書類のこととかは、もうすでにロッタさんが話してくれている。今日は最終的に判断をしてもらうだけってことになってたから、最初にドレスの試着をしてもらう流れになっていると、パパが言っていた。
いきなり私のターンかよ、と思ってみたものの、ずっと緊張し続けるよりはマシな気がした。私が身を引き締めているうちにパパは部下に指示を出して、リオレッドから取り寄せていたドレスを王と王妃の横まで持ってこさせた。
「こちらがリオレッドから取り寄せたドレスです。」
パパは一言だけ説明すると、私に目配せをした。
「リア。ご説明を。」
いや、パパちょっと雑すぎない?
もうちょっと説明してくれてもいいじゃん?
私営業マンでもなんでもないって言ってんじゃん?
「はい。」
心の声とは反対に、私はにっこり笑って素直に返事をした。
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