第33話 久しぶりのあのセリフ言っちゃいます!
「リアは、何かいい案があるかい?」
しばらくそのまま頭を抱えていると、全く話を聞いていなかった私にパパが言った。私はその声でやっと正気を取り戻して、頭を抱えていても状況は変わらないじゃないかと、自分に喝を入れた。
「えっと。慎重に考えるべきことだと思います。下手をすれば国と国とのトラブルにも発展しかねない問題です。」
とりあえず何を言おうか全く考えていなかったから、一言前置きを入れた。そして大人たちが「ですよね」と色々無駄な話をしているうちに、頭の中で何を話そうかまとめた。
「まずトラブルを防ぐために、王様方に昨年していただいたように、書面での確認を取り入れるのはいかがでしょうか。」
「書面、ですか?」
「はい。」
書類文化がそこまで発達していないこの世界では、何かを考えるときに書類を使った方法というものの優先順位がとても低い気がする。確かに紙は燃やせば燃えるし、薄っぺらくて心もとないかもしれない。
でもその1枚で戦争の種を消せるんだとしたら、利用しない手はないんだと思う。
「まず商品を売る側の国が書類を作成します。何がいくつ入っていて、いくらになるのか。と言ったことが記された書類です。」
「なるほど。」
「詳しく書くために、2枚に分けてもいいと思います。具体的には値段の記された書類と、数が記された書類です。」
つまりそれはインヴォイスとパッキングリストのことだ。この世界ではまだそこまで多くのものを運んでいるわけではない。だから重量による商品の管理というものをしていないってのもあって、もしかしたらパッキングリストはまだいらないのかもしれない。
でも将来荷物が増えて重量の管理もしなくてはいけなくなった時のために、2枚あってもいいのではないかってことを伝えておいた。
「その二つの書類には、売る側の人のサインを書きます。そして商品を受け取った買う側が、商品の数や内容に間違いないかを確認して、また別の書類にサインをします。そこで受け渡しが完了です。」
買う側の国がサインする書類というのが、いわゆるBLの役割を果たす書類だ。通常は船会社が発行する流れになるけど、国が船会社のような役割を果たしているこの世界では、受け取った人がサインをする流れが妥当だと思った。
「しかし、その都度王にサインをいただくには…。」
「ええ、その通りです。」
一通り書類の説明を終えたところで、ロッタさんが恐る恐る言った。
今はまだ物量が少ないとはいえ、船は1~2日に1度は運航している。その度に王のサインをもらうなんて、そんな恐れ多いことはいくらなんでも私でも頼めない。
「だからこのサインは、担当者のものでいいのです。むしろ実際にその場で作業をした方にしか、数や内容の確認はできませんから。」
「なるほど…。」
こうやってペラペラと大人の前で話すのは久しぶりだと思った。
むしろこんなに大人数の前で話すってのは、初めてかもしれない。途中で少し話しすぎかなと後悔しかけたけど、私はもう17歳。分別もわかる年齢だ。
変なところで遠慮することなく、話を続けることにした。
「そして買う側の国に到着後、数量や金額の書かれたサイン付きの書面を見てから荷物を降ろします。そうすることで何がいくつ来るのかわからないという混乱も避けることが出来ますし、ダメージがあった商品がいくつなのかも把握しやすくなります。」
本当は船の到着前に書類を輸入側の港の方に送ることが出来ればいいのだけど、この世界ではそれが出来ない。でも到着時に手元に書類があるんだとしたら、確認もしやすくなるから、かえってわかりやすくていいかもしれないと思った。
私が話し終わるとしばらく大人たちは黙り込んでいたけど、パパがその静寂を切り裂くみたいに「いかがでしょうか」と言った。
「私どもリオレッド王国としましても、そのような書類があればもっとスムーズにやり取りが出来ると思います。テムライム王国さえ承認していただければ、すぐにでも始めさせていただきたい!」
パパはそう宣言して、チラッと私の方を見た。その顔がまるで「よくやった」といってくれているような気がして、私はにっこり笑ってそれにこたえておいた。
「我々としても賛成です。ですが王に承認をいただきたく。」
「もちろんです。こちらもテムライムで承認をいただいたあと、王に報告いたします。」
はい、皆さん。久しぶりに行きますよーーーーー!
パッパ!後は頼んだよーーーーーー!
っと言いたいところだったんだけど、昨日から香っているビジネスの香りを無視することなんて出来るはずがなかった。
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