第34話 営業マン、やってみます!


それから大人たちは、書類の作成の日程から王への確認の日程とかを話し合った。さっきは完全にパパに任せようとしたんだけど、やっぱりみんなそれを許してくれなくて、一緒に会議に参加するようになった。


なんとなくのスケジュールが固まって、みんな心なしかホッとした顔をしていた。でもそのスケジュールはうまく行ってもしばらく帰れそうにない感じがして、ママごめんねって心の中で思った。



「それでは明日から…。」

「あの…。」



そして話がひと段落してロッタさんが会議を終わらそうとした頃、私は遠慮がちに手をあげながら言った。すると全員が私の方を見て、不思議そうな顔をした。



「一つ、提案させていただいてよろしいでしょうか。」



今まで聞かれてアドバイスをしたことは何度もあったけど、自分から手をあげて発言するのは初めてだった。男尊女卑がまだあるこの世界で「お前みたいなやつが!」なんて言われないだろうかと少し心配になったけど、みんな優しい顔をして「もちろん」と言ってくれた。



「昨日、街を歩かせていただきました。初めて見るものや食べるものばかりで、感動いたしました。」

「そうですか。それはよかったです。」



コイツは何の話をし始めるのかという顔はしていたけど、みんな話は聞いてくれた。そこで少し心が折れそうになったけど、話を続けた。



「そしてその時、一つ発見をしたんです。」



私は前世の職場ではただの貿易の手続きをする仕事をしていた。だから営業みたいな仕事をするのは初めてで、緊張で手が震えそうになった。



これ以上硬くならないためにも、私は自分の中に営業マンっぽい人をイメージしてみた。そして一番に浮かんできたのが、誰の気持ちも嫌にせず自分のペースへともっていく、じぃじの姿だった。



「ティーナ、あれを。」



だからそんなじぃじを自分の中に召喚するために、ちょっとじぃじっぽくティーナを呼んだ。



「は、はい!」



ティーナはミアさんっぽくはなかったけど、会議の前に出していた指示通り、買ってきたドレスを持ってきてくれた。



「これは今日、イルミナード通りのお店で購入させていただきましたドレスです。」

「ええ。」



唐突に私がドレスを取り出したのを見て、全員がもっと分からないという顔をして私を見ていた。でもだんだん心が強くなり始めた私は、今度は立ち上がって熱弁を始めた。



「こちらのドレス。後ろを見ていただくとわかると思いますが、着脱がとても楽になっているんです。このようなものはリオレッドにはありません。」

「そう、なんですか。」



女のドレスのことなんて、きっとみんな知らないんだろう。ロッタさんや役人の皆さんも、そうだったんだという目でドレスを見ていた。



「そして生地も、このように伸びやすく、着ていると本当に負担が少ないんです。それに何より安い。素晴らしいと思いました。」



「少し触ってみてください」と、パパを含めて皆さんにドレスを渡してみた。するとみんな感心した様子で、「ほんとだ…」と言っていた。



「一方、こちらをご覧ください。」



次取り出したのは、テムライムで貴族の方たちが着ている方のドレスだ。ここまでくると不思議そうな顔をしている人はだれ一人おらず、全員がドレスにくぎ付けになっていた。



「こちらも同じお店で購入させていただいたもので、ビジューの方や王族の方々がパーティーなどで着られるものだそうです。」



私はティーナに小声で「持って行ってあげて」と指示を出した。ティーナがそれを机に置くと、全員がそのドレスを触ったりじっくりみたりしていた。冷静に考えるとだいぶクレイジーな光景だなって思った。



「実際に手で触らせていただいて感じました。正直に申し上げますと、リオレッドのものに比べれば、品質が劣ります。」



今度はティーナに、私が持ってきたドレスを持って行かせた。それはじぃじに買ってもらったものだから、間違いなくリオレッドで最高級のドレスだ。



「手触りでお分かりになるかと思いますが、生地の滑らかさが違います。昨日店主の方には確認させていただきましたが、テムライムでは最高級品がそのドレスだと、教えていただきました。」



ドレスを触った大人の屈強な男たちは「ほんとだ…」と言って目を丸くしていた。私は内心ガッツポーズを作りながら、「そこで」と話をつないだ。



「私はこのテムライムのドレスを、リオレッドでも売り出したいと思っています。そして同様に、ビジューや王族の方にリオレッドのドレスを体感いただきたいんです。」



ロッタさんは少し考えた後、「なるほど」と一言だけ言った。



「私たちもいきなり売りつけようとは思いません。取り急ぎリオレッドからいくつか取り寄せましょう。それを王や王妃に見ていただいた後で決めていただいても結構です。」



パパには何も話していなかったのに、私の意図を組んで言ってくれた。さすが実力を積んだ営業マン。言葉に自信と威厳を感じた。



――――パッパ、さすがっす!



「お互いの持っていない物同士を売ったり買ったりすることこそ、国と国で商売をする利点です。せっかく友好的な関係を築けているんですから、私はリオレッドの人たちにこの良さを知ってもらいたいですし、それにテムライムの方たちにもぜひこの着心地の良さを知ってもらいたいと思います。」



早速私はパパを見習って、今度は堂々と言ってみた。すると難しい顔をしていたロッタさんは、私の顔を見てにっこり笑った。



「あなたは本当に、ゴードン様そっくりですね。」

「そうみたいです。」



否定することなく同調して言うと、ロッタさんも部下の方たちもクスクスと笑った。



「わかりました。王に話してみましょう。」

「ありがとうございますっ!」



ビジネスの香りを、私はしっかりと捕まえた。私はパパの方を見てにっこり笑って、「やったぜ!」と心の中で言ってみせた。

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