第32話 肝心なことを忘れていた件


次の朝、ご飯を終えた私はすぐにパパと一緒にあのドレスのお店に行った。パパは会議が終わってからでもいいじゃないかと言ったけど、そういうわけにはいかなかった。だって私はこれを、会議に持って行きたいんだから。



「おはようございます。」

「ゴードン様、アリア様。おはようございます。」



そして私たちが帰ってきてすぐ、ロッタさんやテムライムの方たちも会議室に集合した。とりあえずしばらくは当り障りのない雑談をした後、パパが「では」と言うと、みんなが会議をする姿勢になった。



「昨日停留所の方を見させていただきましたが、具体的にお伝えしたのは昨日の通りです。船から荷物を降ろしたり乗せたりするときの手順に、改善が必要ですね。」



パパはそれからも、すらすらと改善点とどう改善したらいいのかってことを話していった。やっぱりその内容はとても的確で、口のはさみようがないなと思った。



「あと、困っていることはございますか?」

「そうですね…。」



一通り説明をしたあとパパが聞くと、ロッタさんはしばらく黙り込んだ。そして「どうしようもないのかもしれませんが…」と言いにくそうに切り出した。



「船の上でダメになってしまうものがあるのは、ある程度仕方がないと思うんです。天候の関係もありますし…。」

「そうですね。」



本当はそうじゃないんだけど、今の状態でコンテナみたいなものを作れない以上、仕方がないことでもある。少し落ち着いたらコンテナのことも考えてみないといけないなと、心の中で思った。




「最近物量が増えたっていう事もありまして、何がいくつ届くのかという事が明確に把握できていない状況で…。」

「なるほど。」

「荷物が届いたら、ダメージがいくつなのか、合計がいくつなのかという確認から入るので、余計に荷物を積んだり降ろしたりするのに時間がかかってしまうと聞いています。」



その言葉を聞いて、元貿易事務OLとして、私は自分が決定的なミスを犯していることに気が付いた。



説明しよう!

貿易とは海外から商品が運ばれてくるものというイメージが強い人も多いだろけど、実は詳しく言うと3つのものの流れのことを言う。まず一つ目が想像通り、"商品"。そして二つ目がそれに伴う"お金"。


この二つに関しては貿易条件を整えることで、何となく円滑に流れるルートを確保できているように思える。


だがしかーし!!実はとても大切となのが、3つ目となる"書類"の流れだ。

元居た世界では、貿易をする時にはINVOICEとPACKING LIST, BLという3つの書類がないと、そもそも貿易をすることができない決まりになっていた。


INVOICEインヴォイスとは日本語で言うと請求書。その名の通りいくらのものがいくつ入っているのか、そして合計金額がいくらになるのかという記載がある。

PACKING LISTパッキングリストとは梱包明細書のことで、商品の大きさや重量、個数などが詳細に示されている書類だ。

BLとはBill of Ladingの略で、日本語では船荷証券という。簡単に説明すると、船会社が荷物を受け取りましたという受領の証明となる書類で、その書類自体で商品の価値を証明できる有価証券としての役割を果たしてくれる。



こんな大事なことを、どうして見落としていたんだ…。


たかが書類と言われてしまえばそれまでだけど、その書類一つでお互いがちゃんと商品をいくつ受け取りましたという確認をすることが出来る。それだけではなく後からみたとき、お互いしっかりと了承していますという証明としても、利用することが出来る。



こんなすぐそばに争いの火種を残してしまっていた…。


あの頃はいつもその3つの書類を使って色々な手続きをする仕事をしていたはずなのに、一番目の前にあったものを見落としてしまっていた。



はぁああ~~~。

私ってほんとバカだ。


聡明とか言われて調子乗ってたけど、完全にやらかした。バカだ。今まで何もなかったのが奇跡だし、なんならみんな善人過ぎやしないかい?



会議はどんど議題が先に進んでいて、パパたちはどうやってそれを解消しようかの話しを一生懸命進めていた。


けど私はしばらく自分の無能さに打ちひしがれて、思わず下を向いてため息をついた。

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