第13話 緊張の晩さん会


二人の姿を見て、会場中の全員がリオレッド方式の敬礼をした。テムライムの人はテムライムの敬礼をするのかと思ったらそうじゃないのかって、私も頭を下げながら思った。



「直れ。」


じぃじは勇ましく号令をかけた。すると全員がビシッと動きを揃えて、顔をあげた。



「先ほどテムライム王国とリオレッド王国は、新たに約束を結んだ。今後はいかなる場合でもこの約束に従い、お互い円滑に取引を進めること。」

「「はっっ!!!」」



じぃじ!かっこいいぞ!!


いつもデレデレしながら私がワッフルせんべいを食べているのを見ている人と、同じ人には全く見えなかった。でもじぃじの号令でみんなが正しい姿勢で返事をして、それは心地いい位にそろっていた。



「テムライムとリオレッドは、これからより一層深い関係を築いていく意思を確認させてもらった。今日はその第一歩として、大いに楽しんでくれ。」

「「はっっ!!!」」



みんなはまた正しい姿勢を取って、じぃじに返事をした。



いっぱいたべま~す。

と、私は心の中で返事をした。




「じゃあなんかとりあえず食べる?」

「あんた居酒屋来たんじゃないんだから。」

「い、ざかや?」



それからまた号令がかかったと思ったら、各自最初に用意されたテーブルの周りをかこんで食事が始まった。しばらく王に挨拶に行くことは禁止されているみたいで、みんな楽しそうにご飯を食べていた。



「あんまり食欲ないけど…。」

「めずらしいな。」

「うるさい。」



一杯食べるとはいったものの、緊張であまり食が進みそうになかった。テレジア様にでも助けを求めに行くかと思って辺りを見渡すと、テレジア様はジルにぃと一緒にいろんな人に挨拶をしていた。



「ねぇ、アルはいいの?」

「なにが?」

「ご挨拶。」


アルは何も気にせず、バクバクとご飯を食べていた。やっぱり9歳の頃と何ら変わりないなと、呆れてその光景を見た。



「あとで行かなきゃな。でもとりあえず腹ごしらえ。」

「はぁ…。」



こんな場面でも美味しそうに食べれるという事には尊敬した。やっぱり全然食は進みそうにない。でもあんまり食べずにいても力が出ない。私は無理やりにでも少しずつご飯を口に入れた。



しばらくすると、王様への挨拶が解禁されたようで、じぃじやテムライム王の周りは挨拶に来た人でいっぱいになっていた。


まるで会社の新年会とか忘年会の時みたいな光景だ。



「リア。」



久うぶりに見る光景を懐かしんでいると、後ろからパパの声がした。ご飯をもぐもぐしながら振り返ると、パパは「行くよ」と言った。



「どこに?」

「ご挨拶に。」



えぇ…?私、も…?

行く…の?



「ほら。」



パパは腕を三角に折って、腕を通せと暗に伝えてきた。私はもぐもぐ食べていた美味しい料理を置いて、パパの腕に渋々自分の手を通した。



「はぁ。」

「もうちょっとだから。」



私の心を読んだみたいに、パパは言った。

あんまり信用ならない言葉だったけど駄々をこねても帰れるわけじゃないから、私は今日何度目になるか分からない気合をもう一度入れなおした。




しばらく順番待ちをして、いよいよ私たちが挨拶をする番になった。

私は丁寧に敬礼をしたパパに習って、今日一番丁寧な作法をした。



「先ほどはありがとうございました。」

「こちらこそ。有意義な時間だったよ。」

「テムライムに伺う前に色々と準備を進めますので、準備が整い次第連絡させていただきます。」

「ああ、頼む。」



パパが無難に会話を進めてくれるから、私はただ立ってニコニコするっていう一番楽な役を担った。


このまま形式上の挨拶だけして、終わらないかな~。



「リア。」


するとテムライム王は、笑顔を張り付けた私に言った。その声で意識を取り戻した私は、私は急いで笑顔を張り付けなおした。



「負担をかけるが、よろしく頼む。」

「お力になれるよう、精いっぱい努めさせていただきます。」



何を考えていても、私の口からは無難なセリフが出てきてくれる。無意識だけど私ってもしかして思っているより口がうまいのかも?と過信していると、お付きの人に次に回せとせかされた。



握手会の時間制限みたいに、私たちはそそくさとテムライム王の前を去った。じぃじには事前に挨拶にこなくていいと言われていたから、私たちはそのまままっすぐさっきいた場所に帰る道のりを進もうとした。



「アリア・サンチェス様。」



すると唐突に、後ろからフルネームで名前を呼ばれた。

誰にだって"リア"としか呼ばれないから何となく違和感だなと思いながら振り返ると、そこにはキレイな敬礼のポーズをした、テムライムの騎士が立っていた。


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