第12話 晩さん会の始まり始まり
「リア。そろそろ行くぞ。」
運ばれてきた美味しい紅茶を飲みながらテレジア様とガールズトークをしていると、ノックの後アルが入ってきて言った。
もっとお話ししたかったなと後ろ髪引かれている私を、テレジア様が「リアちゃん」と柔らかい声で呼んだ。
「大丈夫。またあとで会いましょう。」
「はい。」
晩さん会にはリオレッドの数人の大臣一家も参加することになっている。多分ジルにぃとテレジア様も一緒に来るのだろうけど、二人とお話出来るだけの余裕が自分にあるのかはわからない。
私はさっきもらったバレッタをそっと手で押さえて、「先に行ってます」と二人に伝えた。
「アルも参加するんでしょ?」
「ああ。」
「緊張しない?」
「もう慣れた。」
アルはその言葉通り、平然とした顔で歩いていた。忘れてたけど、こいつ貴族の家の出身だった。商人の家で生まれてこんなところに無縁だったはずの私より、そりゃ慣れてるに決まってるだろうなと、深いため息をついた。
「何をそんな緊張してるんだよ。」
「だってぇ~。失敗したら首切られない?」
「どんなやばい国だと思ってんだよ、お前。」
確かに今まで生きてきて、一度もさらし首なんて見たことがない。だからと言って緊張しないでいようっていうのは無理な話だから、もう一回大げさなため息をついた。
「ほら。」
するとアルが、立ち止まって左手を腰に当てた。何してるんだと思ってみていると、一度私を見た後、赤い顔をして前を向きなおした。
「腕。」
「え?」
「俺が先歩くから。」
なんだ、エスコートしようとしてくれてるのか。
アルもやっと貴族の男性らしく成長したなって少し感動すら覚えながら、私は素直にアルの腕に右手を通した。
「おいてかれんなよ。」
「おいてかないでよ。」
相変わらず素直ではないけど、アルなりに私に気を使ってくれている。それを感じたらまた心強くなった気がして、私はさっきより心なしか堂々と王城までの道を歩いた。
「リア、待ってたよ。」
「パパ。」
パパはすでに会場入り口で私を待っていてくれた。
腕を組んでいる私たちを見て、パパは一瞬は驚いた顔をした。でもすぐいつも通り穏やかな顔になって「ありがとう」とアルにお礼を言った後、先に会場の方へと進んでいった。
一歩会場に足を踏み入れると、そこはまるで別世界のようだった。
会場は私たちの家なんかすっぽり入ってしまうんじゃないかってくらい広くて、天井にはいくつもの豪華なライトがついていた。床は深紅の絨毯が引かれていて、丸テーブルがたくさん並べられていた。
中にはすでに数人のリオレッドの大臣やテムライムの人たちっぽい人が、好きずきに談笑を始めていた。
「わぁ、すごい…。」
「何が?」
アルは何ってことないって顔をして言った。感動を返してほしいと思って睨みつけると、アルはすぐに私から目をそらした。
「これ、ダンスするスペースなんてないじゃん。」
「何言ってんの、お前。この後会場移動すんだよ。」
当たり前ってテンションでアルは言ったけど、そんなの私にとっては全然当たり前ではない。こいつもしかしてバカにしてんのか?と思って、もう一回にらみつけてやったけど、アルはそんな私に気が付きもせずどんどん前に進んでいった。
それから続々と、たくさんの人が入ってきた。中には見たことのある顔もあったけどほとんどが新しく見る人で、もう誰に挨拶されてもよく分からなくなりそうだなって思った。
「ほら、もうすぐ王様がお見えになる。」
戸惑う私に対して、アルはやっぱりなれた様子で私を前の方にエスコートしてくれた。エスコートってより引っ張られてた状態に近いけど、アルのおかげでなんとか前の方へとたどり着いた。
王様たちが座るんであろうその場所は、ステージみたいな段差があった。その段差の上には豪華なテーブルと椅子が置かれていて、いかにも"王様の席"って印象だった。
あ~、お腹すいた。
ガツガツ食べてしまいたい。
思わず気を抜きそうになっていると、近くにジルにぃとテレジア様の姿が見えた。テレジア様もすぐ私を見つけてくれたみたいで、こちらに向かってウインクをしてくれた。
そのウインクに答える意味でも私もにっこり笑ってみせたけど、テレジア様の破壊力がやばすぎてめまいすら感じそうになった。
「ちゅうも~く!」
するとその時、会場中に響き渡るような低い太鼓みたいな楽器の音の後、ステージの上にいたおじさんが叫んだ。音にびっくりして反射的に私が姿勢を正すと、それと同時に二人の王様が入ってくる姿が目に入った。
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