第10話 未来のためになることをしよう
「話が長くなってしまったが…。そろそろ本題に移らせてほしい。」
そのあともテムライムに行ってからどうするのかとかの話をした後、じぃじは仕切り直すみたいにしてそう言った。テムライム王もその言葉に「はい」とうなずいて、もう一度姿勢を正した。
「
「いいえ、お互い様です。」
この話になったらもしかするとバチバチに喧嘩し始めるんじゃないかとか思ってたけど、二人はとても冷静だった。なんだ、こんななら簡単に済ませてくれればよかったのにと思った。
「今回の件は、リオレッドが全て負担をさせていただく。」
「ですが…。」
「すべてはリオレッドの船で起きたこと。責任は私が持とう。」
「いいな、ゴードン」と言って、じぃじはパパに合意を求めた。もちろんパパに「いやです」なんて言う権利はないから、「もちろんです」と答えた。
「毎回こうやって私たちが話し合えば現場が混乱しないが…。トラブルが起きる度こんな風に国まで来てもらうのも、心苦しい。お前も忙しいだろうしな。」
「いや、とんでもないです。」
じぃじがいい感じに、契約書を結ぶまでの流れを作っていた。流れがあまりにもスムーズで、思わずボーっとして見とれてしまった。
「そこでだ。今日ここに、決まりを作らないか。」
「決まり、ですか…?」
「そうだ。」
そう言ってじぃじは、ミアさんに指示をだした。ミアさんはスムーズに"約束状"を持ってきて、テムライム王の前にそれを置いた。
「これから物品をやり取りするときの、約束状だ。最初から決まりを作っておけば、もめる根本の原因をなくせる。」
テムライム王は約束状をじっくり眺めて、小さく「なるほど」と言った。何もできない私はその光景を、固唾をのんで見守った。
「今までなかったのが、逆に危なかったんだ。」
じぃじは続けて言った。その顔は少し悲しそうに見えた。
「私は今のテムライムとの関係をいつまでも大切にしたいと思っている。昔のようにいがみ合う関係にはもう戻りたくないんだ。」
昔リオレッドとテムライムは、戦争をしていたと聞いた。
隣国の仲が悪くなるのって前世でもあるあるだったからしょうがないのかもしれないけど、この二人の関係をみたら、このまま良好にいってくれることに越したことはないと私も思う。
「私にできることは数少ない。王でいられる時間も、永遠でない。」
じぃじはとても寂しいことを言った。いつか別れがくるのは絶対なのに、そんなこと想像もしたくなかった。
「だからこうして王でいられる間に、未来のためになることをしたいんだ。」
じぃじがそう言うと、テムライム王はゆっくりと顔をあげた。そして深く息を吐いたあと、顔をあげて笑顔を作った。
「あなたは本当に…。見本とすべき王様です。」
「そんなことはない。毎日助けられてばかりだ。」
「そういうところもです。あなたといて、あなたを尊敬しない人はいないでしょう。私も例外ではありません。」
屈強な見た目をしたテムライム王は、その体に見合わないくらい優しい声で言った。
「この提案を、断る理由がどこにありますか。私も王になった以上、未来のためになることをさせてください。」
そう言ってテムライム王は立ち上がって、じぃじに握手を求めた。じぃじもにっこり笑って「ありがとう」と言って、その手をがっちりと握った。
ああ、もう。なんてすばらしい光景なの?
私たちは言葉が使える種族で、そして相手の気持ちも考えられる。だからこそ思いやりを持って接しなきゃいけないのに、いつしか自分の利益だけを追求してしまうこともある。
それなのに今私の目に映っているのは、人のためを考えて、幸せな未来を考えようとしている、二人の王の姿だった。
あれだけ来たくないと思っていたのに、この素晴らしい光景を見られた私はここに来れてよかったとすら思えた。光がさしているわけでもないのに笑顔で手を組む二人は本当に輝いていて、私は出来る限りのことをやって見せようと、そう決めた。
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