第9話 海外旅行、昔はすきだったんだよね


「そうですか、では一つ。」



じぃじの提案をすんなり聞いて、テムライム王は私を見た。今すぐここで意識を失って倒れれば会議が中止になるかなと思ったけど、また開かれるってなったらいやだから、その案は実行しないことにした。



「私たちもこれから、運送の発展に力を入れていきたいと思っている。だがどこから始めればいいのか、まずスタート地点で戸惑っているんだ。」



なんて漠然とした質問だ、と思った。テムライムの状況だって全く知らないし、どう国を発展させたいかのプランも分からない。


でも「そんな大雑把なこと聞くなよおっさん!」なんて言ったら本当に首が飛んでしまうから、脳みそをフルスロットルで働かせて言葉を探した。




「わたくしの意見なんて、参考になるかわかりませんが…。」



最後に一回、意見しなくていい道を探してみることにした。でも無情にもテムライム王は私の言葉を聞いてゆっくりと首を横に振って、「ぜひきかせてくれ」と言った。



しょうがない。

覚悟を決めるのよ!リア!



本当は両手で両頬を強く叩いて気合を入れたいくらいの気持ちだったんだけど、レディとしてそんなはしたないことは出来ない。その代わりに汗で濡れた手をギュっと握って、覚悟を決めた。



「それでは…恐縮ですが、考えを述べさせていただきます。」

「頼む。」

「まずは、担当者をおつくりになるところからだと思います。」



とは言え、状況が理解できていない以上、私に出来るのはわかることから無難な答えを出す事だった。無難だけど大切なことだと思って言葉にすると、みんなポカンとした顔をしていた。



「先ほどお付きの方が宰相様だと自己紹介してくださいました。」



王様の後をついてきた人は、椅子に座る前に自分は宰相だと言った。

宰相って言うと、なんていうか国の政治とかを担っている王様の右腕、みたいな人なんだと思う。今日は運送の話を中心にするってわかってたのに、"政治"を中心に行う人を連れてきたってことは、きっと運送を専門に行っている人はいないんだろうなと推測した。


我ながら賢いと思う。



「宰相様はその他にもお仕事をこなされていると思います。もしそれなりに運送を円滑にしたいと言った希望であれば、運送についても宰相様が管轄されてもいいかと思います。しかしもし本格的に力を入れるのであれば、お忙しい宰相様の代わりにそれだけを見るという担当者は絶対に必須です。」



リオレッドで言う、パパがそうだ。

パパは国の役人でも何でもないけど、要は公務員で、いまや運送を中心に見ている担当者といっても過言ではないと思う。


すごく基本的なことだけど、基本って多分一番大切になると思う。


でも私があんまり抜けたことを言いすぎたせいか、みんなしばらく黙り込んでしまった。こんなことで首を切られたくない私は、焦って言葉を追加することにした。



「ですが私は今のテムライムの状況をしっかり把握できているわけではございません。もし実情をしられている王様や宰相様が、それが必要ないとご判断されるのであれば、必要ないと思います。」

「いや…。」



保身に出た私の言葉を、テムライム王は一言で否定した。なにを言われるのかびくびくしていると、王はこちらを見て困った顔をして笑った。



「どうしてそんな基本的なことが見えていなかったのか…。恥ずかしいよ。」



うわぁああ、いい人。


そのことで完全にホッとしてしまった私は、思わず飾らない笑顔で笑ってしまった。淑女たるもの上品に笑わなければと、また気を引き締めた。



「カイゼル様。」

「うん。」



するとテムライム王は、じぃじを見てきりっとした顔をした。何が始まるのかと見守っていると、王は「お願いがございます」とはっきりとした口調で言った。



「サンチェス家の二人を、一度、テムライムに派遣していただけませんでしょうか。」


テムライム王の口から出てきたのは、信じられないセリフだった。


…ええ?

ええぇ?!

サンチェス家の、ふ・た・り?!?



パパとママじゃないよね?

いや、パパとママでしょ。

奥様もご一緒に~みたいなノリっしょ?



「私はもちろん構わない。どうだ、ゴードン。」

「はい、もちろんです。娘と共に喜んで行かせていただきます。」



むむむむすめぇ~~~それすなわち、私ぃ?!?!?



「ゴードン、アリア。すまないが、力を貸してくれ。」

「身に余る光栄です。」



うん。海外旅行だ。そうだ。

前も好きだったじゃん、旅行。

美味しいもの食べて、キレイな景色見てさ。

寝たい時間に寝たりお酒楽しんだり、さ。



「リアも、頼んだよ。」

「お力になれるか分かりませんが、全力を尽くします。」



じぃじの言葉を聞いて、私の口は勝手に優秀っぽいことを言っていた。

私は赤ちゃんだったころの自分を思い出して、あの頃のイージーモードに時を戻してほしいと天使に必死に頼んでみた。

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