第8話 これってワッフル一生分の労働だと思います


「まあとりあえず、座って話そう。」



じぃじの一言で、王様とおつきの人が席に着いた。テムライム王にも数人の護衛の人が付いてきていて、なんだかすごく圧迫感があってこわかった。



まあでもそれは相手からしても同じ状況か。



別に仲が悪いわけでもないんだから、こんなに緊張する必要ないかって思ったけど、そういうわけにはいかなかった。私はなんとかバレないように体の中にたまっている緊張を息と一緒に吐き出して、固くなった体を少しでもリラックスさせようと心掛けた。




「改めて本日は、お招きいただいてありがとうございます。」

「いや、それはこちらのセリフだ。遠いところ本当にありがとう。疲れただろ。」

「いえ。久しぶりに来られて僕も嬉しいです。」



やっぱり驚くほどテムライム王の腰は低かった。この人は王様ですかと思わず質問したくなるくらい、丁寧な人だった。どこかの王子に爪のアカでも煎じて飲ませてやってほしい。



「街の様子を少しだけ見ましたが…。こちらではウマスズメが人を荷台のようなものに乗せて引いているのですね。」

「ああ。それもこのゴードンが開発してな。いまではわしも一つの移動手段として重宝してるんだ。」



テムライムでもウマスズメが日常生活に欠かせない動物になったという話は聞いていたけど、その文化はリオレッドと比べるとまだ少し劣っているらしい。王様は「本当にすごいですね」と腕を組んで感心していた。



「ゴードン。あとで設計図を一つお渡ししろ。」

「か、カイゼル様…。そんなっ!」



じぃじがあっさり設計図を渡すと言ったことに、テムライム王はすごく驚いた。確かに設計図を簡単に渡すなんて本当はしていけないことなのかもしれないけど、私にはその意図が理解できた。



――――じぃじの交渉は、すでに始まっている。



「私たちは敵国ではない。お互いの国を豊かにするための情報ならば、喜んで渡そう。」



交渉の一部ではあると思うけど、じぃじの言葉には嘘もないと思う。本気で他人の幸せを願っている人だからこそ、この人は信頼の厚い王として国民から愛されているんだと、その言葉を聞いて改めて実感をした。



「本当に…いつもなんとお礼を言っていいか。」

「私はなにもしていないんだよ。私は椅子に座って許可を出しているだけなんだ。今のこの国の発展があるのも、すべてここに座っている二人のおかげだ。」



じぃじはそう言って、笑顔でこちらを見た。話を振るな、と思った。



「ゴードンが我が国に教えてくれた知識は、余すところなく使わせてもらっている。この国の運送の発展をみると、貴殿が"運送王"と呼ばれる理由もよく理解できる。」



テムライム王はパパを見ていった。私は心の中でひたすら「話が回ってきませんように」と祈り続けていた。



「いえ、違うんです。」



パパ、やめなさい。



「私はいつもこの子のアイディアを具現化しているだけで…。」



やめなさいっていってるでしょ。



「すべての起源は、この子にあるんです。」



パ、パアアアアアァァアアアア!



「い、いえ。私は…。」



心の中は大声で叫んでいるはずなのに、とても小さな声しか出なかった。するとテムライム王はにっこりと笑って「信じられませんね」と言った。



「こんなに若くて美しい女性が、この国の基盤を作ったなんて。」



そうでしょ?信じられないでしょ?

ほんと、基盤を作ったなんて大げさなんですよ、嘘なんです。

だから全然信じなくていいんですよ、ね?



「でもカイゼル様がここにお呼びするという事は、本当に聡明な方なんでしょう。」



違うって…。違うんだって…。



「ああ。この子は国の未来だ。情けないが私も、いつも意見を参考にさせてもらっている。」



ねぇ、ほんとやめて?

じぃじもパパも、ほんとやめて?

察して?察せられる男たちでしょ?

私知ってるんだよ?



「お前もなにか相談があったらしてみるといい。きっといい意見をくれる。」



じぃじは穏やかな笑顔を崩さずに私を見た。

私も出来るだけ笑顔を崩さないままじぃじの方を見て、心の中で「ワッフルせんべい何個分になるか覚えてなさい」と言った。

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