第7話 とんでもございませんっっ!!!


「お待たせ、ゴードン、リア。」

「じぃじ…いや、王様。ごきげんよう。」



しばらくすると、じぃじがあの扉から入ってきた。

私はいつも通り砕けた挨拶をしそうになったけど、なんとかそれを止めて、礼儀正しい挨拶をした。



「似合ってるよ、リア。」

「ほんと?嬉しいっ。こんな可愛いドレス用意してくれて本当にありがとう!」

「こら、リア。今日はそういうのダメだって言っただろ。」



パパには怒られたけど、じぃじはそんなこと全く気にしないって様子で「どういたしまして」と言って、私の手の甲にキスをしてくれた。私はそれに対して膝を曲げて挨拶をしたけど、なんだか照れくさくて笑ってしまった。



「さぁ、もうすぐテムライムの王が来られる。よろしく頼むよ、二人とも。」

「「はい。」」



じぃじがそう言って王様モードの顔をしたから、私もパパも背筋を伸ばして気合を入れた。



ああああ~~~~、イヤだ。

本当に嫌だ。

失態して首切られてさらされたりしないかな?

どうせ殺すなら苦しまない死に方に…




「失礼します!」



私の思考回路を一刀両断するように、大きなノック音とミアさんの声が響いた。そしてその声と同時に、王様を含めて私たちはいっせいに立ち上がった。

私の心臓はもう本当に飛び出てしまうんじゃないかってくらい高鳴っていて、手にはびっしょり汗をかいていた。



鳴りやめ…。鳴りやめ…。

これじゃまともに話なんて出来ない。

こんなことになってるのだって、全部自分のせいでしょ?



私は自分で自分に必死で言い聞かせて、出来るだけ丁寧な姿勢を取った。そしてドアがゆっくりと開いていく様子を、ただ集中して見つめていた。




開いた扉から入ってきたのは、パパとそう変わらないくらいの年齢の、屈強な男の人だった。最初は警備の人かななんて思ったんだけど、腰に剣もないし、みるからにいい服を着ている。




――――あれがテムライムの、王様…。



勝手にじぃじくらいの年齢のおじいちゃんを想像していた私は、王様が思ったより若くてたくましいことに驚いた。私が驚いている事なんて気が付くはずもなく、テムライムの王はそのままじぃじに近づいて、ビシッと左手の指を3本顔の横にあげた。



「お久しぶりです、カイゼル様。」

「アレク。よく来たな、ありがとう。」



なるほど、あれがテムライム方式の敬礼か。

テムライムの王様がアレクサンドロスという名前だっていうことは聞いていたから、あの人が王様だってことは間違いないんだろうけど、それにしてもじぃじに対して腰が低すぎる。



一気に色んなことに動揺していると、今度はじぃじがこちらを振り返った。



「アレク、この男がゴードンだ。」

「テムライム王、お初にお目にかかります。ゴードン・サンチェスと申します。」



パパはテムライム方式の敬礼をして、王様に挨拶をした。パパだって緊張しているはずなのにすごく堂々としていて、本当にすごいなと思った。



「ああ。噂は聞いている。いつもありがとう。」

「いえ、こちらのセリフです。テムライム王国のご協力なしに、今の私はここにいません。」



たしかにテムライムから輸入しているトマトチヂミがなかったら、そもそもパパが運送に携わることもなかったのかもしれない。初めて取引をした経緯まではしらないけど、本当にその言葉通りなんだと思う。



「あなたが…。」



私が気を抜いて感心していると、今度はテムライム王が私を見た。



やっっば!


また余計なことを考えていたことを後悔しつつ、一瞬でお嬢様モードの自分を連れ戻した。そして今までで一番なんじゃないかってくらい、低くて丁寧な姿勢を取った。



「お初にお目にかかります。サンチェス家長女 アリア・サンチェスと申します。」



やばい、近い、近すぎる!


目の前に隣国の王がいるっていう状況に、私はもう一度緊張し始めた。緊張し過ぎないためにも大げさかと思うくらい低い姿勢を取ってあえて目を合わせないようにしていると、テムライム王は「おなおりください」と言った。



「テムライムにも、あなたの噂は届いています。ですがこんなに若くて美しい方だとは、とても驚きました。」



え、え、ええぇぇ。

テムライムの王様、腰低すぎぃ?!



腰が低すぎて逆に緊張が高まる感じがした。

思わず体を固めて動揺していると、テムライム王はあろうことか、私にも敬礼の姿勢を見せた。



「本日はありがとうございます。」

「と、とんでもございませんっっ!!!」



私は45年の人生で間違いなく1位の「とんでもございません」を発した。



っていうか45ってあんまり言うのやめよ。何か自分で言ってて落ち込むわ。



緊張すると変なことを考えてしまうクセをまた繰り返しながら、王様よりなんとか腰の低い姿勢が取れるように意識した。

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