第5話 いざ!出陣だ!


「はぁあああああああああああああああ~~~~~~!」

「リア。ちゃんとしなさい!」

「ママァ~~~~~分かってるんだけどさああああああ~~~。」



そして来たる隣国の王との接見の日。私は家で大げさなほど大きなため息をついた。ため息と一緒に背を丸めると、ママが私の背中を持って、無理矢理姿勢を正してきた。



「リア様、大丈夫です。」

「メイサァ~~、もう嫌だぁ~~ドレスにつられて行くなんて言わなきゃよかったぁああ~~~。」



支度を手伝いに来てくれたメイサに抱き着きながら、思いっきり弱音を吐いた。じぃじが用意してくれたドレスは澄んだような水色をしたドレスで、フレアになっている部分にはキラキラと光る宝飾がされている。揺れる度それが光るのがすごく繊細で美しくて、まるでキレイな湖みたいだと、初めて見た時思った。


こんないいドレス、ママは絶対に買ってくれない。試着した時は昔憧れたプリンセスにでもなれた気持ちになったけど、今はプリンセスになんてならなくていいから、ベッドで一日中寝てたいと思った。


もう今更どうすることも出来ないのに、私はメイサが髪の毛を整えてくれている間、ママが呆れるくらい駄々をこね続けた。するとその時、腰の部分に何かが突進してきた衝撃を感じた。



「リア、かわいいっ!」

「こら!危ないでしょ。それにリア様、って呼びなさいって言ってるじゃない。」



この子はメレシー。レオンさんとメイサの9歳の一人娘だ。メイサに似てキレイなピンクの髪の毛をしていて、目はレオンさんに似て深い深海のような青色をしている。



「いいの、メイサ。私だって人のこと言えないし。」

「ねぇ、リア。大きくなったらこのドレスちょうだい?」

「え~、私がボロボロになるまで着てるかもよ?」



「いやだ~」と言ってメレシーは膨れっ面をした。兄弟がいなかった私はこの子のことを妹みたいに思っていて、メレシーも私のことを慕ってくれる。この子の未来のためにも私も頑張らなきゃと、その青く輝く目を見てやっと決心した。



「リア、行けるかい?」

「パパァ、行けるけど。行きたくない。」

「はは。分かったから早くおいで。」



決心したはずの気持ちは、ほんの数秒で崩れ去った。それでもトボトボと足を前に進めていると、ママに「シャキッとしなさい!」と怒られた。



「ママ、帰れなかったらごめんね…。」

「何言ってるの!気をつけて行ってきなさい。作法は忘れずに!疲れてもニコニコしてること!余計なこと言わないこと!走らないこと!それに…」

「わかった、わかったから。」



家から出たくなかったけど、これ以上家に居たらママの小言が止まらない。私は優しく見送ってくれるメイサとメレシーにも軽くキスをして、パパが手配してくれた馬車リゼルに乗り込んだ。



「ねぇ、パパ?」

「ん?」

「こんな風に一緒に王城に行くのも、すごく久しぶりね。」



この人が乗る用の馬車リゼルも、パパがケルシュさんと共同開発したものだ。今ではタクシーみたいにしてたくさんの人に使われていて、街で見ない日はない。



「そうだな。前は手をつないで歩いて行ったよな。」

「うん、懐かしいね。」

「王城に入ったら、また手でもつなごうか?」

「パパ!私もう子供じゃないのよ?」



怒る私をみて、パパは嬉しそうに笑った。

この世界では思春期なんて迎えることなくずっとパパが好きな私は、手をつなぐ代わりにパパの腕を組んだ。するとパパも嬉しそうににっこりと笑って、それを受け入れてくれた。



久しぶりの出陣だ。しかも今までとは少し意味が違う。



「はぁ、緊張する。」

「大丈夫だよ、王様がいてくれる。」

「それも、そうね。」



そうは言ってみたけど、じぃじがいてもいなくても緊張はする。私は出来るだけ高鳴っている鼓動をおさめるためにも大きく深呼吸をして、近づいてくる王城まで精神統一をし続けた。

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